医師や他部門を動かす 経営数字のかしこい使い方
第1回
病院のお金の流れを図式化する「お金のブロックパズル」のつくり方

収入の大半を保険診療によって賄っている病院は、得るべき収入の7~8割が確実に入金されることから、キャッシュフローについてはあまり関心が集まらなかった。ところが近年は設備投資に診療報酬が追い付かなかったり、医療職の人件費が収益を圧迫したりと、資金繰りが経営課題の一つになりつつある。ここでは看護師、経営企画室長、コンサルタントなど多彩な経歴を持ち、病院業務を知り尽くす杉浦鉄平・メディテイメント株式会社代表取締役に、一目でわかる経営数字の読み方を解説してもらう。

新型コロナウイルス感染症に対応する病院だけでなく、さまざまな医療機関の日常的な診療に、感染拡大の影響が広がっています。患者側も感染を恐れ受診差し控えの動きも広がり、外来、入院数が減少し、病院経営に大きな影響を及ぼしています。こんなときこそ、焦らず冷静に病院のお金の流れを俯瞰し、ポイントを的確にとらえてから、現実的なキャッシュフロー経営を考える必要があります。

ビジョンとお金は両輪

まず、前提は「お金はあくまで病院がやりたいことを実現するための手段」だということです。お金のことだけを考えるだけでは不十分で、お金を使う動機であるミッションやビジョンも併せて理解してもらう必要があります。これから数回にわたり、「お金のブロックパズル」を使って、数字ではなく可視化情報で病院経営全体を俯瞰し、思いだけではなく、利益が出て健康的な経営ができることをめざしていきます。

決算書が読めれば経営判断ができるのか?

質問です。あなたは、決算書を読み解けますか? 決算書の内容を理解するだけではありません。決算書から経営的な問題を正確に特定できますか? その問題を解決する糸口を導きだせますか?
私は、これまで多くの病院の経営支援にかかわってきました。その経験から実感していることが2つあります。一つ目は、医師や看護師など医療専門職の多くが決算書について非常に苦手意識をお持ちであること。二つ目は、経営陣でさえも、決算書をそれほど理解していないケースが多々あることです。
しかし、安心してください。これからお伝えするのは、病院や施設を経営するうえで、決算書が読めなくても数字に苦手意識を持っていても、たった2割の会計知識で、経営上の意思決定に必要な判断材料の8割をカバーできるお金の話です。「決算書や数字が読めること」と「正しい経営判断ができること」は別の能力なのです。
私が病院にキャッシュフロー経営を導入する際は、図1ような手順で行います。

お金ブロックパズルの「ステップバイステップ」

いきなり決算書の数字を読み解くのではなく、まず一般論として、お金の流れの全体像をビジュアルでつかんでもらってから、病院の数字をあてはめてみたらどうなるかを視覚的に理解してもらいます。そして理想のブロックパズルを作成してから、細かい数字を独自のエクセル表に入れ、予実管理を行っていきます。

お金のブロックパズルの構造

では、最初のステップ「会社にお金がどのように入ってきて、どのように出て行くのか、そしてどれだけ残るのか」について、図を描きながら、順番にお話します。
お金のブロックパズルは、図2ように西順一郎氏のSTRAC表という、会社の費用を変動費と固定費に分けて会社の収益構造を図式化したものをベースに、和仁達也氏が利益から先の出ていくお金までを加えて、会社の利益がどのように使われるかまでを、視覚的に理解できるようにしたものです。これが経営数字力を駆使するうえで大きな武器になります。
図3に、その全体図を示します。パッと見ただけではわかりにくいかもしれませんが、左の売上から右の繰越金(手残り)までお金が流れていることは、何となくイメージできるかと思います。

ビジュアルでお金の流れをとらえるの例

このように、数字ではなくビジュアルでお金の流れをとらえることが重要です。しかし、このシンプルな1枚の図で、あなたの病院のお金の流れがほぼすべて説明でき、経営判断に必要な基準を示すことができるのです。
特に正確さは追求しません。経営に必要な要点だけを絞ってお話ししていきます。

お金のブロックパズルがわかることのメリット

お金のブロックパズルがわかると、以下のようなメリットが手に入ります。
①部下や同僚、他部門の方々へ、経営数字をわかりやすく伝えられる
②人を何人まで増やして良いのか、ボーナスはいくらまで払えるのかという人件費の上限がわかる
③来期はどのくらいの売上が必要か、根拠のある必達売上目標がわかる
④医師に無駄な設備投資をさせないといったモノを買う基準がわかる
⑤うちの病院はいくらまで借入して良いのか借入の上限がわかる

ブロックパズルの書き方

お金のブロックパズルは、7つのブロックからできています。売上高、変動費、粗利、固定費、人件費、その他固定費、利益の7つです。順に「STEP」を示しながら解説します。
まず、売上からスタートします(STEP1)。

ステップ1

「STEP2」で示す変動費は、売上が増えたら増え、減ったら減る費用のことです。
たとえばペットボトル飲料を50円で仕入れ100円で売れれば、変動費は50円。2本売れれば売上は200円、変動費は100円になります。
また、業種によって何が変動費かは異なります。運輸業の場合は、売上が走行距離と比例するのでガソリン代や高速代が変動費になります。病院であれば治療によって増えるもの、つまり、薬剤や医療材料などが変動費になります。