これから始める病院原価計算
第2回
原価計算の目的を明確にし開示方法をイメージすると導入作業が効率的に

原価計算の目的はあくまで分析結果を行動変容につなげ、経営改善を実現すること。そのためには原価計算の結果を見た人が納得し、当事者意識を持つような指標を設定する必要がある。マネジメントの範ちゅうにない費用を見せられても、改善しようがないのだ。

原価計算導入時に陥りがちな精度の向上が目的化する問題

原価計算の導入場面では、計算精度の確保が重要になります。分析結果を行動変容につなげるには、裏づけとなる情報に対する納得感が必要になるからです。
しかし、院内に存在する情報が分析目的に最適化されているとは限りません。作業効率やコストなどを重視して採用された部門システムから経営データの収集を行うと、信憑性が低く、分析に値しない情報も存在します。

こういった場面で一定の精度を確保しようとすると、運用ルールを変更したり、新たなデータを作成したりといった手間が発生します。これでは、原価計算の精度を高めるためにコストをかけるという、本末転倒な状況になりかねません。
時間と労力をかけたからといって経営が改善できるとは限らないため、導入時は、精度の向上が目的化しないよう気をつける必要があります。

必要な情報は粒度に応じ変化 精度確保が困難なケースも

2013年に、中央社会保険医療協議会(中医協)のコスト調査分科会で示された資料によると、原価計算の計算単位は診療科別、部署別、入院・外来別、病棟別、疾患別の順に実施率が高くなっています。それぞれの単位で原価計算を行う場面を想像すると、必要な情報は異なることがわかります。

医師給与費の取り扱いをイメージしてみましょう。診療科別では、医師ごとの給与と所属診療科が特定できれば迷うことなく処理できます。
しかし、入院・外来別では、どう振り分けるかのルールを決める必要があります。病棟別になると、入院に計上した金額を病棟に割りあてる方法まで設定しなければなりません。午前中は外来、午後は手術と回診、空き時間は医局で研究、週1回は当直する医師の給与を適切に割り振るのは、現実的に困難です。

当事者意識と納得感がないと分析結果はただの数字

原価計算の結果をもとに行動変容を促すには、当事者意識をもてる計算単位で、納得感のある指標を開示することが重要です。医師に病棟別の計算結果を見せても直感的に理解することは難しいですし、事務職員給与費など自身の影響範囲が及ばない科目の推移を見ても、行動変容にはつながりません。

一方、コントロール配下にない指標であっても、それを無視すると納得感が得られないケースもあります。たとえば、看護配置の手厚い急性期病棟をよく利用する診療科と、看護配置の手薄な回復期病棟ばかり利用する診療科が存在する場合です。
このような状況で看護職員給与費を除いた結果を見せられると、自身の診療科が相対的に不利となる分析方法であることに気づいた医師から、不信感を抱かれます。こうなると、原価計算の結果は数字の羅列でしかなくなってしまいます。

一見、妥当な計算方法が問題を抱えているケースも

先に挙げた、診療科別の原価計算における看護師給与費の取り扱いはデリケートです。一般的な診療科別の原価計算では、病棟の看護師給与費は病棟ごとの延べ患者数に応じて各診療科に計上されます。これにより看護配置が異なることで生じる問題は解決し、納得感が得られるという考え方もあります。しかし、本当にそうでしょうか。

たとえば、A病棟の看護師給与費が1500万円で、当該病棟における外科と整形外科の延べ患者数が500人/月だった場合、各診療科には750万円が計上されます。この翌月、外科の延べ患者数は500人/月のままで整形外科が250人/月に下がった場合、外科には1000万円、整形外科には500万円が計上されます。他科の稼働によって変動する指標で自科が評価されていることが判明すると、同じように不信感を抱かれる可能性があります。

何を開示すべきかを決めると効率的な導入作業につながる

原価計算の結果を開示する際には、見た人が行動することで改善する可能性がある指標を検討します。医師の場合は医薬品費、診療材料費、医師給与費などです。この3科目は医業費用の3割程度しか占めませんが、マネジメントの範ちゅうにない費用を開示しても、改善にはつながりません。

収入から医薬品費・診療材料費・医師給与費を差し引いた値が過去と比べてどうか、その値がその他の費用を補えているかを示すことで経営意識を醸成できます。改善活動に移行するためには、この意識づけが重要なポイントです。
これらの指標であれば、複雑なデータ連携、面倒な配賦率設定などを実施せずに導入できます。このように、あらかじめどう見せるかを明確にしておくことは、導入作業の効率化につながります。原価計算の導入時には、効率的かつ効果的な取り組みを意識しましょう。

小川陽平(株式会社メハーゲン医療経営支援課)
おがわ・ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院.com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成

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