これから始める病院原価計算
第1回
病院原価計算の取り組みを経営改善につなげるには
最適なチーム編成が重要

原価計算といえば、かつてはおもに製造業や飲食業などで行われていたが、現在では多くの一般企業で活用されている。人件費などのコストが増加するなかで、収支バランスの最適化に欠かせないからだ。コスト高が経営に大きく影響する病院においては必要不可欠と言える。

原価計算を上手に活用すると経営は9割以上よくなる

まずは、簡単な自己紹介をさせていただきます。私は2012年10月に福岡県の医療関連企業に入社し、これまで約7年間にわたって原価計算システムの普及活動を行ってきました。過去にシステムを提供した病院数は50以上で、いずれも提案活動から導入作業、活用支援までを一貫して実施しています。システム導入時点の赤字病院率は約8割でしたが、前年度決算ではその半数以上が黒字となり、赤字が縮小した病院を含めると、改善率は90%を超えます。当連載では、原価計算を経営改善につなげる方法について紹介していきます。

原価計算の普及率は3~4割 赤字病院が実施しない理由

19年11月に公開された第22回医療経済実態調査をみると、18年度における病院の利益率はマイナス2・7%となっており、52%の病院は赤字となっています。注目すべきは、収益が増加しているにもかかわらず利益が確保できない点で、この傾向は12年度から継続しています。

13年に中央社会保険医療協議会(中医協)のコスト調査分科会で示された資料によると、原価計算を行っている病院の割合は37・5%となっています。その他の調査でもほぼ同様の傾向が示されていることから、少なくとも、6割以上の病院は実施していないと考えられます。原価管理の重要性が高まっているにもかかわらず、原価計算が普及しない理由はどこにあるのでしょうか。

過去に実施されたアンケートの結果をみると、「人がいない」「スキルがない」「データがない」など、院内の体制的な問題が挙げられています。しかし、これらの課題は投資を行えば解決できる問題です。実際は、「原価計算をしても経営改善につながるかどうかわからない」という漠然とした不安から、先送りしている病院が多いように感じます。

改善プロセスを体系化 うまくいかない要因を明確に

当たり前の話ですが、原価計算をしたからといって、経営が良くなるとは限りません。これは、家計簿をつけたからといって貯金が増えるとは限らないのと同じ理屈です。では、家計簿の記録を家計の安定につなげるためには、どのようなプロセスが必要でしょうか。

まず、出費の内容を確認することで見直しが可能な候補をリストアップします。次に、集めた情報を元に話し合いを行います。ここで合意した内容に沿って取り組みを実行すると、収支のバランスは改善していきます。
一連の流れを整理すると、①現状の把握、②改善策の検討、③関係者との協議、④施策の実行──の4段階で構成されていることがわかります。病院経営と家計を一括りにするのは不適切かもしれませんが、原価計算の活用に悩む病院を訪問すると、いずれかの工程でつまずいているケースがほとんどです。

チーム編成により原価計算の価値を最大化

先ほどの4段階のプロセスを実行する場合、必要となるスキルは多岐にわたります。病院の経営データは部門ごとに管理されているため、原価計算を実施するにはバランスの良いチーム編成が必要です。しかし、原価計算チームを立ち上げる場面では、「論理的思考力がある」「院内のシステムに精通している」「データを扱うスキルが高い」など、原価計算に最適なスキルを持つ人材だけを集めてしまいがちです。原価計算は経営改善の1プロセスにしかすぎません。原価計算が目的のようなメンバー構成にしてしまうと、改善サイクルを回せないチームになってしまいます。

こうした課題を抱える病院は、経営改善を見据えたチームに再編することで成功確率が高まります。改善策の検討は「クリエイティブな人」、関係者との協議は「リーダーシップのある人」、施策の実行時は「行動力のある人」など、プロセスごとに最適な人材を加えることが、スムーズな経営改善につながります。

経営改善に近道なし 小さな成功体験を重ねる

私は一時期、学会などで経営改善の事例を発表している人に声をかけ、改善できる病院とそうでない病院の違いを聞いて回っていた時期があります。すると、「とにかく頑張る」「あきらめない」「決めたことをやり抜く」など、根性論に近い回答が多くを占めました。当時は「急に話しかけた怪しい人間には教えてくれないか……」とガッカリしていたのですが、いろいろな経験を重ねるなかで、それこそが真意で、最も効率的な解決策だと考えるようになりました。

計画に基づいて行動すると数字は変わります。100円でも1000円でも、意識して取り組んだことで成果を出せた経験はチームのモチベーションを向上させます。

次回以降では、小さな成功体験を積み重ねることの重要性をお伝えできればと思います。

小川陽平(株式会社メハーゲン医療経営支援課)
おがわ・ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院.com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成

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