経営数字のかしこい使い方
最終回
「収入アップ」「支出ダウン」「資金繰り対策」
具体的行動レベルにブレークダウンする

これまで「お金のブロックパズル」を用いて自院の取り組むべき課題を見える化する方策を解説してきた。最終回の今回は、具体的な行動レベルへの落とし込み方を学んでみよう。

お金の悩み 階層化4ステップ

これまでの流れを踏まえながら、お金のブロックパズルを活用したキャッシュフロー経営導入のステップをまとめてみましょう。

まず、病院のお金の流れを数字ではなくビジュアル情報で全体像をつかみ、次に、一つひとつのブロックに実際の数字を入れ、自院のブロックパズルの形を把握します。ここで「利益が出ていない」とか「借金を返済できる余力がない」という状態なら、まずは、良くも悪くもないゼロ地点を明らかにします。たとえば、収支をトントンまでもっていくなどです。このレベルがわかったら「利益はこのくらいにしよう」という理想のブロックパズルを明らかにします。ここまで状況把握の段階です(図1)。

理想のブロックパズルを描き大枠の問題点をとらえたら、いよいよ、対策の方向性を見極める段階となります。対策の方向性は「医療収入アップ」「支出のダウン」「資金繰り対策」の3つです。前回お伝えしたとおり、医療収入アップは全体のパイを増やすことで、利益を残そうという方向性。支出ダウンは、全体のパイはそのままで、出ていく経費を減らすことで利益を増やそうという方向性です。資金繰り対策は、お金の入りと出は変わらず、利益から先の対策を考えます。
これら3つを分けることで、病院全体の利益を増やすためには、「今、何が優先課題だろうか」と考えるのが対策の方向性という次のステップになります。

次に、対策の方向性の3つについて因数分解して細分化します(図2)。収益であれば、患者数アップ(入院・外来)、診療単価アップ、リピート率のアップ(検診ドックなど)という3つの要素に分けることができます。また、売上から変動費を引いた粗利を増やすことに着目すれば、診療報酬請求の適正化や不良在庫の見直しで無駄な廃棄を減らすなどの対策が考えられます。

支出ダウンは、変動費ダウン、その他の固定費ダウン、労働分配率のダウンに因数分解します。ここで「人件費ダウン」と言ってしまうとネガティブにとらえられ、モチベーションを下げてしまう恐れがあるため要注意です。労働分配率のダウンであれば「粗利を上げる」という選択肢があるので、希望が出てきます。

資金繰り対策を因数分解すると、銀行に対して10年で返済する予定を15年に延ばし月々の負担を軽くする返済負担の圧縮、設備投資の見直し、節税対策などを検討します。コロナ禍においては緊急制度融資、借入複数化などによるキャッシュストックを増やす対策も必要になるかもしれません。

図1 キャッシュフロー経営導入のステップ

共通言語を持つ

ここまできてようやく、具体的な行動レベルまでブレークダウンします。ところが、多くの医療機関ではいきなり各論に切り込むケースが多く、問題を抱えているがゆえに当事者には焦りがあったり、草の根レベルで現場をわかっている人ほど、盲目的に下の階層から切り込んだりしたくなります。

各論から入ってしまうと、現場は階層化した考えを知らないので、具体策がどのプロセスにつながるのか理解できません。その結果、もぐらたたきゲームのような対症療法的解決に陥り、さらにこれが繰り返されることによって、次第に現場もやる気を失っていきます。このようなパターンを繰り返さないためには、この図を前提に、まず上の階層に意識を引き上げ現状把握から始めるのが第一歩です。大切なのは、今どこの階層の話をしているのかを病院全体で共有するための”共通言語”を持つことです。共通言語がないのは地図を持たずに山に登り始めるようなもので、たいていは遭難します。

キャッシュフロー着眼点モデル

キャッシュフローの構造から、利益アップに直結する具体策を直観的に発想するためのキャッシュフロー着眼点モデルを紹介します(図3)。戦略会議などではこのシートを使って俯瞰的に対策を打つことで思考の幅を広げることができます。人間の脳は、イメージと言葉が一致してはじめて認識できるので、このシートで理想を見える化することにより達成の可能性も高くなります。

《シートのつくり方》

①病院の現状の概算値を入れる
②できそうなことをすべて書く
③それをやったときの経済効果を書く
④やる順番を決める
⑤具体的なプランに落とし込む

シートが作成できたら、それぞれの項目に対してまず思いついたアイデアなどをどんどん書き込んでいってください。ここはブレインストーミングなので、ルールとして絶対否定的な意見を言わないことを心がけてください。現状は盛大に無視し、この着眼点モデルを使って、とにかく数をたくさん出してみてください。出し尽くしてから絞りこみ、決定したらブラッシュアップして最後にコミットします。

このように、決定までのプロセスに全員がかかわることで、コミットするとき自動的にコンセンサスが得られます。着眼点モデルを使ってこのプロセスを全員が共有することにより、対策が成功する確率が格段に上がるでしょう。

図3 キャッシュフロー着眼点モデル

1シートマネープランシートで予実管理する

最後に、アクションプランを策定したら、実績に対しエクセル表を使って、具体的に細かい数字を入れていきます。ここで紹介する「1シートマネープラン」(図4)は、B/S(貸借対照表)とP/L(損益計算書)を1枚で見られるようにした表で、経営の判断基準となるお金の出入りを集約し、1年先のお金の動きまで見える化する経営判断ツールです。これを用いることで、計画と実績の差を把握しながら行動につなげていきます。

以上6回にわたり、経営数字をビジュアル情報でわかりやすく伝え、経営改善はもちろん、ビジョン実現化に向けた職員のモチベーションツールとしても威力を発揮する、お金のブロックパズル。そして、キャッシュフロー経営導入の流れについてお伝えしました。医療機関のお金の悩みが少しでも解消される一助になれば、幸いです。(『最新医療経営PHASE3』11月号)

図4 1シートマネープランの例

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杉浦鉄平(メディテイメント株式会社 代表取締役)
すぎうら・てっぺい●30年以上にわたる病院勤務(臨床15年、看護部長10年、事務局長5年)と、病院コンサルタント経験で培った、病院経営における人、ビジョン、お金すべての問題を解決するメソッドを体系化。このメソッドをより広く普及させるためにメディテイメント株式会社を設立。また、セコム医療システム株式会社顧問に就任。「病院組織再生コンサルタント」として、多くの病院の組織変革を実行。現在は、コンサルティングと同時に、病院管理者研修、病院の意図を理解し、自律的に行動する医療経営人財を育成する「医療経営参謀養成塾」を運営。