MMS Woman Lab
Vol.114
療養環境は個人のセンスではなく
病院としての方針に基づくものに

<今月のお悩み>総務課に勤務しています。受付に手芸が趣味の職員がおり、最初はデスク回りに作品を置いていたのですが、周囲に褒められたこともあってか共用スペースにも作品を置くようになりました。先日も受付票を提出するトレイを自作のキルティングボックスに変えてしまっていたりしたため、患者さんも混乱するので戻すように伝えたのですが「患者さんには評判いいですよ」と聞く耳を持ってもらえません。どうしたら良いでしょうか。

病院として療養環境をどう整えるかという視点で考える

病院の外来や病棟の環境はこの10年くらいで大きく変わってきました。エントランスホールはホテルのような吹き抜けの天井や全面ガラス張りで自然光を取り入れた明るい印象のところが増えてきましたし、壁には絵画を飾ったり、おしゃれなデザインが施されていたりしていてとても明るく、気持ちが穏やかになるような工夫がなされています。壁に囲まれた薄暗い待合室で、不安な気持ちで無音のテレビをじっと見つめる、という一昔前の「病院」のイメージとはずいぶん変わったな、と感じています。

もちろん、療養環境への考え方はさまざまですから、少し明かりを落として静かで落ち着いた印象を大切にしている病院もありますね。大切なのは、「病院としてどのような療養環境を提供するか」という方針、ポリシーを持つことです。
たとえば、院内の場所の名称や呼び方は統一されていると思いますが、それだけではなく掲示物の文字の大きさやフォント、強調方法なども統一されていれば見やすくなります。診療科ごとの受付レイアウトも基本的な機能(患者さんが書類を提出する場所など)は院内で統一しておかないと、患者さんが混乱してしまいます。
もちろん、診療科によっての特性はありますから、特に小児科などは子どもたちの気持ちが和むような可愛らしい飾りつけなどを行う病院もあるでしょう。

ご相談の受付の方は、個人的な趣味を全面に出しすぎているのかな、と感じますね。患者さんが受付票を提出するトレイを自作のキルティングボックスに変えしまったり、布でつくったお花や人形などでカウンターの上を飾り、貸し出し用のクッションや膝かけを受けつけ台の前に籠をおいて用意したり、内線電話の受話器にも布製のカバーをつけたりということですね。とても手芸がお好きな方で、いろいろなものをつくられているのだと思いますが、病院は個人の作品の展示場所ではないですし、感染管理の上でも、院内の統一感の視点でも受け入れがたい状況だと思います。

総務課として注意をしても、「あなたが用意した事務用のトレイより、こっちのほうがきれいだし、良いと思います」「患者さんには喜ばれています」「院長が『すてきだね』って言ってくれました」などと言われるようですが、もし、そうであれば、院内環境の改善という形で提案を出していただいて、病院全体での見直しを考えるようにしていきましょう。
総務課のあなたと、外来受付の職員の「どちらのセンスが良いか」といった個人的な話ではなく、病院として療養環境をどう整えるべきかという視点できちんと考えるようにしましょう。

感染管理や患者の利便性を重視することが大切

今回のご相談は受付周りのちょっとした「飾り」の話と捉えられるかもしれませんが、もし病院として診療科ごとに特色を出す、工夫を凝らすなど自由度を認めるのであっても、その範囲や限度、基準は定めておいたほうが良いと思います。特に感染管理や患者さんを混乱させないようにするという視点はとても重要です。
家庭で自分の好きなように部屋の模様替えをする感覚でレイアウトを変えたり、自分たちが使いやすいように備品の配置を変えたり、自分たちの周りだけ別の装飾をしたりすることは、多様性や工夫ではなくただの「自己満足」です。趣味の場と公共の場の違いをわきまえた行動をとっていただきたいところです。

一方で、その職員の素敵な「趣味」は、療養環境の「彩」として十分活用できるものかもしれません。季節のお花を活けたり、季節感のあるデザインのタペストリーや折り紙などを院内に飾ることで来院する方々の目を楽しませ、癒しを提供することができるものと思います。病院として最適な運用で、活躍していただく機会をつくることも考えてみると良いのではないでしょうか。

〈石井先生の回答〉

「どちらのセンスが良いか」という個人的な話ではありません。「病院の方針としてどのような療養環境を提供するのか」を明確にし、全体で共有することが重要です。そのうえで、センスを活用してもらえるような場は別に設けられれば良いですね。(『月刊医療経営士』2024年1月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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