MMS Woman Lab
Vol.113
メンバーの自己成長を促すための
コーチングスキルを身につけよう

<今月のお悩み>医事課で主任をしています。当院ではeラーニングでの職員研修が行われており、コーチングの研修を受けた課長が、毎日メンバーに「最近どう?」と声をかけてくるようになりました。学んだスキルを実践することは重要だと思いますが、「皆の前で聞かれても」と、メンバーは困惑しています。私も主任という立場で今後はメンバーにコーチングをすべき場面も出てくると思うので、アドバイスをいただけますでしょうか。

知っておくべきコーチングとティーチングの違い

病院の研修は多種多様になってきました。リーダーシップやマネジメントの研修に合わせて、コミュニケーションスキルやチームビルディング、コーチングスキルといった内容も取り入れられているようです。職場環境は年齢や性別、国籍などさまざまな面で多様になってきていますから、部門長の役割を担う方には、「人をまとめ上げる」スキルが必要になってきているということでしょう。
もちろん、メンバーとして働く場合もチームの一員としてのコミュニケーションのあり方やチームビルディングにおける役割などをしっかり知っておく必要があります。そのため、同じように研修を受ける機会が増えていると思います。最近はeラーニングを導入している医療機関も増えましたから、研修も受けやすくなりましたね。

さて最近eラーニングで「コーチング」を学んだ課長が、毎日課員に「最近どう?」と声をかけるようになったとのこと。早速、「オープンエンドクエスチョン(Yes/Noで答えられない質問)を使用した、思いや考えの引き出し」を実践されているようですね。ただ、コーチングの基本は1対1。落ち着いた環境で話を聞くほうがコーチを受ける側も話しやすいと思いますので、日常的に声かけを増やすだけでなく、環境設定を行ってから質問を始めていただきたいところです。

所属長がメンバーに対して果たす役割にはいくつかありますが、「コーチング」もその一つです。
よく似ていて混同されやすい役割に、「ティーチング」があります。ティーチングはその言葉のとおり、メンバーに指示や助言を与える、答えを教える役割です。つまり、仕事における何らかの技術や知識を後輩に教える場合はティーチングに当たります。
一方でコーチングでは、メンバーの自発的な行動を引き出す働きかけを行います。答えはメンバーのなかにあり、それを対話のなかで引き出していく役割です。質問、傾聴、共感、洞察、フィードバックなどのスキルを使って、メンバーが問題を理解し、解決策を見つけるのを助けます。コーチはメンバーの視点に立って共感し、質問を通じてメンバーを自己探求に導きます。
たとえば、仕事の仕方に悩んでいたり、仕事をなかなか覚えられずに困っているメンバーがいた場合に、そのメンバーがどんなところに課題を感じていているか、なぜ「できない」と感じているのか、自分がどのようになったら「できた」と思えるのかなどをしっかりと聞き取り、なりたい姿、目標を明確にし、自分にとっての答えを見つけ、そこに到達するまでの行動計画を自分で立てるサポートを行います。

メンバーの状況に合わせて適切なコミュニケーションを

ティーチングが教師と生徒のような関係だとすれば、コーチングはパートナーシップの関係というイメージです。大企業では、ティーチングとコーチングを別の管理職が担っているケースもありますが、病院のような小さな組織では、1人の所属長がティーチングとコーチングの両方の役割を果たすことになります。メンバーの状況に応じて、ティーチングをすべきなのか、コーチングで導くべきなのかを判断して使い分けることが必要です。

今後、主任としてメンバーから相談を受ける機会も多くなるでしょうし、時にはこちらから声をかけて、気持ちの整理をフォローする時もあるでしょう。ぜひ身につけたさまざまなコミュニケーションスキルを活用して、自分が今ティーチングをすべきなのか、コーチとして一緒に考えて前向きな気持ちで仕事に取り組んでもらえるような目標設定をする時なのかを見極めて、習得したスキルを上手に使えるように工夫をしていってください。
諸先輩方の周囲とかかわりを見ながら、スキルの使いこなし方の参考にしてみるのも良いと思います。

〈石井先生の回答〉

コーチングと混同されやすい役割として、ティーチングがあります。病院のような小さな組織では1人で両方を行うことが求められますので、ティーチングをすべきなのか、コーチとして一緒に考える時なのかを見極めながら、コミュニケーションスキルを活かしてください。(『月刊医療経営士』2023年12月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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