MMS Woman Lab
Vol.110
多様性の時代において大切なのは
偏見を持たないこと、特別視しないこと

<今月のお悩み>総務課で実習生の受け入れを担当しています。コロナ禍で停止していた実習を3年ぶりに実施することになり、先日看護学校の担当教諭と打ち合わせがありました。そこで、受け入れ予定の学生のなかにトランスジェンダーの方がいるので配慮をしてほしいと伝えられました。当院でトランスジェンダーの実習生を受け入れるのは初めてなので、病院としてどう対応すべきでしょうか。

7医師、看護師などの医療者に
声かけや個別対応の仕方を相談する

「多様性の時代」と言われ、さまざまな分野で、個性や特性を表現できるようになってきています。身体にハンディキャップのあるダンサー、トランスジェンダーのアーティストなど有名な方々はもちろん、皆さんの身近にも「自己表現」をする方が増えてきているのではないでしょうか。
視覚にハンディキャップのある方々が普通に電車に乗って出かけるようになりましたし、周囲の人が進行の妨げにならないように配慮したり、時には手を貸したりしている姿を見ると、「受け入れる社会」になってきていることを感じます。

病院に勤務していると、多様な患者さんと日々接していますので、個性に合わせた個別対応も日常のことになっています。
一方で、職員側、働く同僚の多様性への対応はどうでしょうか。
新型コロナウイルス感染症が5類に移行にしたことをきっかけに、3年ぶりに看護師の実習生を受け入れるようになったとのことで、ようやく日常が戻りつつありますね。

総務課の実習受け入れ担当者として看護学校の担当教諭との打ち合わせをするなかで、「○○さんはトランスジェンダーであることを表明していますので、ご配慮をお願いします」と伝えられたとのこと。病院として初めてのことですから実習生にどのように対応するか、慎重に考える必要がありますね。

実習生受け入れの責任者である看護部長は「受け入れる」と判断したとのことですから、病院としてどのような配慮が必要かを整理してみましょう。

医師、看護師などの医療者は、トランスジェンダーの患者さんに対応する場面があります。声のかけ方や個別対応の仕方を知っていると思いますので、実習生への対応を検討する際には、よく相談することが大切です。
また、現場での実習以外の場面での対応を担うことが多い総務課としても、スタッフと基本的な考え方を共有しておいたほうがよいでしょう

本人がニーズや希望を遠慮なく
伝えられる環境づくりを

トランスジェンダーの実習生を受け入れるにあたって病院として必要な配慮を、具体的に考えてみましょう。
まずは、性別という伝統的な枠組みを超えて、多様性を受容するという意識を持つことが重要です。今回の対応をきっかけに、今後もこの意識を継続するのが良いと思います。

具体的には、性別に基づいたルールを変更する例として、名前の呼び方を「○○さん、○○くん」と性別によって分けるのではなく、全員「○○さん」に統一する、グループ分けをする時に「男性チームと女性チームをつくる」「男女の比率を揃える」などの性別に依存する分け方をやめる、などがあります。

また、どのような場面で本人が「困るか」を想像してみると、着替えの場所やトイレなど、プライバシーの重視が求められる場所に個別対応が必要だということもわかるでしょう。
いきなりジェンダーニュートラルな更衣室とトイレを用意することは難しいかもしれませんが、多目的トイレが院内のどこにあるかを確認してオリエンテーションで知らせる、職員も利用して良いことを明確に伝えるだけでも安心してもらえると思います。

そして、最も大切なのは、偏見を持たないこと、特別視しないことです。興味本位でプライベートなことを聞いたり、他の実習生に遠回しに様子を聞いたりすることがないように、職員をしっかり教育しておきましょう。すべての実習生が公平に扱われ、本人が自分のニーズや希望を遠慮なく伝えられる環境を整えることが大切です。

初めてのことで不安もあるかもしれませんが、今後は病院で働く職員として、多様な方々を採用する日がきます。そのための準備を整える機会を得たと思い、病院全体のこととして、全員で考えていきましょう。

〈石井先生の回答〉

偏見を持たないこと、特別視しないことが大切です。すべての実習生が公平に扱われ、本人が自分のニーズや希望を遠慮なく伝えられる環境を整えたいですね。いずれ、職員として多様な方々を受け入れる時代がやってます。その準備の機会を得たと捉え、病院全体で取り組めると良いですね。(『月刊医療経営士』2023年9月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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