特別寄稿
「食」で地域の元気を取り戻せ!
食を基点としたフレイル予防と地域活性化プロジェクト

現在、シニア世代に対する国の施策は、メタボリックシンドローム対策からフレイル予防へシフトしている。厚生労働省は「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」を策定し、健診現場では2020年4月から、75歳以上の後期高齢者を対象にフレイルのスクリーニングを目的とした健診も始まった。

フレイルとは「健康と要介護の中間の状態」を表し、引きこもりや孤食などの「社会的フレイル」、認知機能の低下などの「心理的・認知的フレイル」、ロコモティブシンドロームやサルコペニアなどの「身体的フレイル」の3つの側面を持っており、当事業部が所在する浜松市においても健康課題の一つに掲げている。

フレイルの図

フレイルの主な要因はサルコペニアと低栄養であり、運動および栄養療法による予防的介入が重要となる。しかしこのコロナ禍において、高齢者の社会参加の機会が減っているうえ、外出控えによるさらなるフレイルの進行も危惧されており、健康寿命の低下ひいては地域社会の活性化の停滞を招いてしまうことが想定される。

今回、「『食』を基点としたフレイル予防と地域社会の活性化」を目的に、聖隷福祉事業団保健事業部(以下、当事業部)と行政、企業などの地域資源が共同で設立した産官連携による「はままつパワーフードフレイル予防プロジェクト(以下、本プロジェクト)」の取り組みについてお示ししたい。

行政や企業と共同でプロジェクトを推進

まず、本プロジェクトの経緯を振り返る。
昨年、高齢者施設での勤務経験を持ち、現在は当事業部に所属している管理栄養士の池谷から、コロナ禍で高齢者のフレイル進行が憂慮されることに鑑み、「食」でフレイル予防に貢献したいとの申し出があった。これを受けて内部で打ち合わせを重ねた結果、高齢者に手軽に手に取っていただくことができ、かつバランスがとれたものとして、「弁当」を開発するのが良いのではないかと考えた。

ただし、製造や販売については当事業部のみで実施するのは難しいことから、この話を当事業部も参画している浜松ウエルネス推進協議会の担当である浜松市健康福祉部の鈴木副参事(当時。現・健康増進課ウエルネス推進担当課長)に伝えた。同協議会は、「予防・健幸都市」の実現に向けた地域の推進組織として、市民の予防・健康づくりに関する事業やウエルネス・ヘルスケアビジネスの創出などに取り組むために20年に浜松市が設立したものだ。
鈴木副参事が、同じく協議会の参画団体である「浜松パワーフード学会」の秋元会長に声をかけてくださり、会長から「ぜひ一緒に開発したい」とのオファーをいただいた。

浜松パワーフード学会(以下、学会)は、浜松のおいしい食を守る応援プロジェクトとして、温暖で豊かな自然に恵まれた浜松・浜名湖地域において生産・漁獲される食材を用いた食事を基点に地域活性化を図ることを目的とした団体であり、生産・加工や流通・飲食などを営む70以上の著名な地元企業が加盟している。

本プロジェクトメンバーとして学会の秋元会長、製造部門として浜松の著名な弁当メーカーである竹泉の木俣社長、学会事務局である遠州鉄道の伊藤課長および高崎ディレクター、浜松市から鈴木副参事と管理栄養士の渥美様、当事業部からは企画・監修として管理栄養士の池谷と総合企画室の松村および池田が参加し、開発に向けてスタートを切った。

キックオフ会議では、管理栄養士の池谷から高齢者施設での勤務を経験したうえでのフレイル予防に対する思い、池田および松村から現在の国県市のフレイルに対する課題や施策を話した。
さらに、弁当開発のみが目的ではなく、これを切り口に高齢者の自宅や通いの場での活用、そして地域の方々が地域の観光資源等を回遊する「マイクロツーリズム」での利活用を提案。さまざまな場所でこの食事を取り入れてもらうことにより、最終的にはコロナで弱った浜松の飲食・観光産業活性化の一助になりたいと語った。
この考えはメンバーに大いに賛同をいただき、その日から開発に向けてスタートを切った。

弁当のコンセプトは「浜松を元気にする」

弁当を作成するなかで、まず、コンセプトである「浜松を元気にする」を実現するため、旬でかつ地元浜松エリア産の食材を50%以上取り入れることを決定。
また、たんぱく質量を十分確保しながら減塩にも注力すること、高齢者にも手に取っていただきやすい金額設定とするなどの規格を定めた。
また、日本栄養改善学会や日本肥満学会、日本糖尿病学会などで構成される「健康な食事・食環境コンソーシアム」が、バランスの良い健康的な食事に対し認証する「スマートミール」の取得も視野に入れ開発を行った。表現は特に時間をかけ、慎重に協議を行った。

効能を表す表記については制限があり、たとえばたんぱく質を多く含む弁当だからといって「フレイル予防に効果がある」といった表現はできない。
しかしながら、この弁当の開発コンセプトや目的を手に取っていただいた方々に伝えたいと考え、店内に専用のPOPを設置し、そのなかでフレイルとは何か、また予防のためにはどのような食材や栄養素をとるのが良いのかを説明し、そしてこの弁当にはその食材や栄養素が含まれていることなどを表すこととした。

食材は前述のとおり、旬の地元食材にこだわった。
たとえば、小松菜は独特のクセがない食材を検討、浜松市内の生産農家「じゅんちゃんファーム(宮本純代表)」産を採用した。これはハウス内の18 基のスピーカーで毎日9時間モーツァルトを流す音響栽培などの手法により、鉄分が通常の3.45倍、ビタミンCも1.41倍含まれるなど栄養価が高く、「音楽育ちのコマツ〜ナ」として地元でも人気の高い食材である。
希少性もあり採用は難しいという意見であったが、秋元会長や木俣社長が企画の趣旨を伝えながら交渉を進めたことにより、価格も含め強力なバックアップをいただくことができた。

販売は、静岡県西部を中心に33店舗を展開する地域最大級チェーンの遠鉄ストアに依頼した。遠鉄ストアは昨年秋からシニア層に向けたフレイル予防に関する食材コーナーの増設も行っており、販売担当部長も市の健康課題として理解されていたため「ぜひ協力したい」との心強い言葉をいただいた。

販促手法は専用サイトの立ち上げのほか、購入対象は高齢者が中心であることを踏まえ、デジタルを取り入れながらもアナログにこだわった。そして、当事業部が重視している「2回以上利用すると継続利用率が飛躍的に向上する」ことを念頭としたリピーター戦略を提案、採用された。具体的には、「弁当に応募シールを添付、集めて応募すると抽選で人間ドック利用券やオプション利用券、地場の食材などをプレゼント」といった企画を行ったほか、リーフレットに二次元コードを添付し、高齢者でも気軽にできる体操方法や、人間ドック・がん検診などの有用性のわかりやすい説明の動画を、読み込んだ先のサイトから無料で視聴できるような仕組みを取り入れた。


栄養弁当の案内とキャンペーン応募リーフレット

価格については高齢者でも気軽に手に取っていただける金額を勘案し、最終的に645円(税込)とした。浜松の旬の食材をふんだんに使用しながらこの価格で販売できたことは、ひとえに本企画に賛同いただいた生産者の方々および本プロジェクトに携わられたすべての方々の温かな支援のおかげ
であり、この場をお借りして深くお礼を申し上げたい。

予防医療を軸として地域活性化・課題解決に貢献

より良い商品とするため、数回にわたる仕様変更もあり、そのたびに竹泉の木俣社長や管理栄養士の池谷には大変な労力をお願いしてしまったが、合計7回にわたる試作を経た半年後の今年3月に完成にこぎつけた。

名称は「23品目の風味豊かな栄養はなまる弁当」とし、5月末まで限定1万食の販売を計画、同月に浜松市役所内にてプレス向け発表会を行った。
発表会では、鈴木康友浜松市長や遠鉄ストアの宮田洋社長、当事業部の福田崇典事業部長にも弁当を召し上がっていただき、市長からは「減塩も考慮していると聞いていたが、味もしっかりついており、大変おいしく食べることができた。引き続き第2弾、第3弾を非常に楽しみにしています」との言葉をいただくことができた。


プレス発表時の様子。右から福田事業部長、池谷、鈴木市長、木俣社長、宮田社長、秋元会長

翌日に販売開始したところ開店1時間後には全店で売り切れ、その日のうちに販売計画を上方修正するなど大変好評な売れ行きが続いており、反応も上々である。
3月17日にオンライン併用で開催された「浜松ウエルネスフォーラム2021」内での本事業に対する報告により、聴講された全国の地方自治体や医療・企業関係の方にも広く認知されたと考えている。

この弁当は今後、季節等に合わせてさまざまな種類を取り揃えながら継続的な販売を予定している。
将来は、高齢者の集う通いの場において管理栄養士や健康運動指導士によるフレイル予防の教室を開催した際に提供したり、バランスの良い食事を取ることが難しい山間地域に居住する独居高齢者にケータリングでの提供、また、マイクロツーリズム時の食事として活用するなど、食を基点とした地域活性化へ向けてさまざまな取り組みを企画している。
さっそく本プロジェクトに興味を持ち相談・問い合わせをいただいた団体もあり、これからの発展が大変楽しみである。


「23品目の風味豊かな栄養はなまる弁当」


当事業部は、主に人間ドックや健康診断、がん検診や保健指導といった事業を中心に健康寿命の延伸を目指しているが、管理栄養士などの専門職が持つ豊富な知識やノウハウについても、行政部門や地域資源と連携することにより相乗的な効果を生み出すことができると考える。
今後も引き続き、さまざまな資源と連携しながら私たちが持つ知識を財産に変換し、予防医療を軸として地域の活性化および課題解決を行う一翼を担っていきたいと思っている。(『月刊医療経営士』2021年5月号掲載)

※WEB掲載にあたり、一部改変しています

医療経営士実践研究講座「健診センターの新型コロナへの対応とポストコロナ戦略」

池田孝行
社会福祉法人聖隷福祉事業団保健事業部総合企画室室長兼聖隷予防検診センター事務長/医療経営士2級
いけだ・たかゆき●大学卒業後、ブライダル事業を展開する企業に就職。プランナーを経て、本店総支配人に就任するも、自身の入院を機に健診事業に興味を持つようになり、2006年、聖隷福祉事業団保健事業部企画課に入職。企画開発室室長を経て、13年、聖隷佐倉市民病院健診センター事務長。病院事務次長の兼務を経て、17年より現職。ヘルスケア経営学院「医療経営士 実践研究講座」にて講師を務める。医療経営士2級