MMS Woman Lab
Vol.109
ワークもライフもどちらも大事
最善の状態を保つマネジメントを
<今月のお悩み>病院の総務部で働いています。先日、朝礼後に課長から「最近、疲れているみたいだね」と声をかけられました。急に暑くなってバテ気味だったのでそのように伝えたのですが、その後、休みの日や帰宅後の過ごし方など私生活に関することを聞かれ、「生活を変えたほうがよいのでは」と言われました。気にかけてくれているのはわかるのですが、上司であってもプライベートまで干渉されたくありません。どう対処したら良いでしょうか。
上司と部下との適切な距離感とは?
「あなたのためを思って言っている」と言われてうれしい気持ちになる時と、少し嫌な気持ちになる時、どちらもありますよね。誰に言われるかによって捉え方は異なります。また、たとえ同じ相手から言われたとしても、場面や内容自分の心持ちによって、受け止め方が変わることもあると思います。
物理的な距離感については、人は親しくない人に近づかれると不快感や恐怖感を持つことがあります。電車内が空いていれば隣の人との距離を空けて座る人が多いように、人は無意識のうちに他人との間に距離を取って、快適な空間を保とうします。この個人的な空間のことを「パーソナルスペース」と言います。相手との親密度によってこの広さは変わってきますが、パーソナルスペース内に他人が入り込むと、人は不快感を覚えるのです。
職場でも他人との距離が近い人はいると思いますが、仕事中にひそひそ話をするわけではありませんから、近づかれすぎて不快に感じるのであれば、話をしながら体の向きを変えたりして少しずつ「程よい距離」に離れることができます。
では、心理的距離感についてはどうでしょうか。今回のご相談の内容ですが、ある日朝礼の後、課長から「最近、疲れているみたいだね」と声をかけられたとのこと。これは、上長としてスタッフの体調や気持ちの状態に対する「気配り」ですから、これだけであれば気にかけていただけていることをうれしく感じるのではないかと思います。
気になるのはその後ですね。「急に暑くなったので体が慣れなくて……」と答えたところ、「生活が乱れているんじゃないか?」と言われ、そこから、「家では何をしている?」「夜遅くまでゲームをしているんじゃないか?」「仕事に支障が出るほど遊んでいてはダメだ。休日の過ごし方を変えたほうが良いんじゃないか……」と、いろいろと“ご心配”をいただいたとのこと。これだけ私生活に関することを聞かれると、たしかに少し過干渉なのではないかと感じますね。
仕事と生活を分けるのが主流
かかわるうえでは配慮が必要
課長に悪気はないのだと思いますが、このように相手を心配するあまり、職場以外での過ごし方、私生活まであれこれ“お世話”をしようとする方に対して「私生活にまで介入されている」「プライベートなことまで管理される」と感じる人が増えているようです。もちろん、執拗に私生活を聞き出そうとするのは良くありませんし、聞かれる側が不快に感じていれば、“余計なお世話”を通り越してハラスメントに近い状態になることもあります。
終身雇用、一度入った職場で定年まで働くのが当たり前だった時代には、職場の仲間とは家族的なつき合いになっていたのも事実です。結婚や出産などのライフイベントも周知のことで先輩にブライベートなことを相談したり、家ぐるみで一緒に出かけたり、お互いに私生活が見えるおつき合いをしてきたわけです。そのような時代を過ごしていた方にとっては、「体調が悪そうなスタッフに自宅での過ごし方を聞き、アドバイスする」ことが私生活への介入にあたるとは捉えていないのだと思います。
ただ、時代は変わりましたし、ワーク・ライフ・バランスの考え方も浸透して仕事と生活を分けて考えるのが主流になってきていますから、かかわる上長も配慮が必要になりますね。部下や後輩の側からはなかなか言いにくいかもしれませんが、休日の過ごし方などを事細かに聞いてこられた時には、「プライベートなことですから」と言って返答を保留しても良いと思います。
最も大切なのは、自分自身がべストなパフォーマンスを発揮できるようにすることです。本当に仕事に影響が出るほど疲れているのであれば、休暇を取ってしっかり体調を整えるようにしてください。ライフもワークもどちらも大切ですから、職場では常に最善の状態で役割を果たさなければなりません。そのためにも、しっかりと自分をマネジメントしていきましょう。
〈石井先生の回答〉
職場の仲間と私生活が見えるつき合いをする時代もありましたが、現在はワーク・ライフ・バランスも浸透し仕事と生活を分けるのが主流ですから、私生活への干渉に対しては返答を保留して良いと思います。ただし、職場で最善の状態で役割を果たすために自分をマネジメントすることも大切です。(『月刊医療経営士』2023年8月号)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか