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DXで新サービスが生まれる
工程表をもとに変化を読み取れ

2026年までの3年間で医療DXは大きく動く
これから起きる変化を先取りし
新しいサービスを考えよ

健康保険証のマイナンバー化

「医療DX」というキーワードを目にする機会が増えている。内閣官房主導で医療DX推進本部という検討会が始まっている。6月2日にその第2回審議会が開催され、医療DXの推進に関する工程表が示された(図表)。その内容について確認をしていく。

図表 医療DXに関する工程表

出典:内閣官房医療DX推進本部第2回資料

まずはマイナンバーと健康保険証の一体化である。マイナンバーを医療機関で保険証として使った際に別人の情報が紐付けられていたという失態があったが、批判を受けても進めていくつもりのようだ。20年前には住民基本台帳ネットワークの導入が進められたが、失敗に終わり、いまだに国民総背番号制の導入に至っていない。
一方、マイナンバーの普及率は67%に達し(22年2月末)、トラブルはありつつも、このまま推し進めていくのだろう。データベースを構築してさまざまなことに活用しようとする際、“誰”に該当するコードが唯一に付与されていないと都合が悪い。たとえて言うなら、同じ患者のIDが2つも3つも電子カルテに登録されているようなものだ。マイナンバーで国民一人に対して一つのIDが付与されていることは、デジタル化していく社会において最低限必須な条件と言える。

病院や診療所、薬局はもちろんのこと、鍼灸なども含めて健康保険証をマイナンバーに変え、2024年の秋には現行の保険証を廃止することが明記された。
少し気になるのは介護保険証については本工程表に盛り込まれておらず、別枠で検討が進められていることだ。どちらにしてもマイナンバーに統一されるという方向性ではあるが、全く別個のシステムとなり、医療機関側のプロセスが複雑にならないことを願いたい。健康保険証と介護保険証の2つのリーダーを受付に置くなんてことは勘弁だ。

電子カルテの標準化

続いて電子カルテの標準化についてである。これもマイナンバーと同じようにこれまで幾度となく取り組まれてきたが、一向に進まない分野である。
周知のとおり、電子カルテのベンダーごとに情報の格納仕様がバラバラであり、相互接続したりカルテを乗り換えたりすることに非常に高いハードルがある。
電子カルテに部門システムを接続しようとすると、何百~何十万円もの接続費が必要となる。ベンダーが異なる電子カルテに変更しようものなら、もう一つ追加で電子カルテを購入するくらいの費用が要求される。データベースの構造は、基本的に公開されておらず、ユーザが読み込んだり書き込んだりすることはご法度となっている。
このような状況に風穴が開く可能性が生まれるかもしれない。さらには、クラウドベースの標準規格に準拠した電子カルテの開発に24年度中には開発に着手することまで明記されている。具体的にどのような形になるのかわからないが、標準化が進むことにより電子カルテの開発も容易になり、さまざまなサービスが出てくることが期待できる。

全国医療情報プラットフォーム

マイナンバーの普及と電子カルテの標準化という2つの施策を推進していきつつ、「全国医療情報プラットフォーム」の構築を平行して進めていく。イメージとしては、各地で行われている電子カルテ情報の共有化(実態はあまりうまくいっていないようだが)を全国統一で進めるものである。電子カルテの情報をその基盤を通じてやりとりしたり、患者個人がその情報を見に行ったりすることができる基盤が想定されている。
さらには予防接種、母子保健、公費負担医療などの行政手続についても、マイナポータルから行えるような構想となっている。そのほか、収集したデータを多方面の研究開発などに活用できる仕組みも盛り込まれている。これらを通じて、新たな創薬や医療系のサービスが生まれる可能性がある。

最後に、2年に1度行われる診療報酬改定に関するDXについても明記されている。改定のたびにシステムベンダーが昼夜問わず開発に追われ、そのコストが医療機関に請求されている。算定ルールの明確化も図るとされており、全国でばらついている基準の統一化も進むかもしれない。
時期的には、26年までにはモデル事業を終えて本格提供を考えているようで、期待したいものである。

3年間で新しい未来が到来

以上の工程表のすべてが26年までに完了するというが、実現できたら驚きである。すでに先に進んでいる海外の事例や一般業界の事例に比べると、現在の日本の医療機関が置かれている状況は周回遅れどころではないほどの遅れを取っている。この工程表が3年後に達成されたとしても、今現在の一般業界のシステム環境に到達するだけであり、先進的な状況には到達しない。しかし、いわゆるAIなどを駆使し、医療の水準や住民のQOLを向上させるには、必須の基盤になることは間違いない。それを実現するための最低限の準備を3年間で進めていくわけである。

本当にこの工程表どおりにうまくいくのか疑問もある。医療経営士として経営にかかわる立場としては、うまくいかないことを前提にするのではなく、このような社会変化が起こる可能性があることを前提に考えるべきであろう。
もし変化が起きなくても現状維持をすれば済む話であり、変化が起こった場合には、組織自体も変化させる必要がある。このような新しいDX基盤を活用して、どのようなサービスが提供できるのか構想していきたい。(『月刊医療経営士』2023年7月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

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