MMS Woman Lab
Vol.107
働きやすい職場環境づくりは
ちょっとした工夫から
<今月のお悩み>病院の医事課に勤めています。当院の医事課はローテーションで早番制度を導入しています。通常勤務より1時間早く出勤し、その分早く退勤することになっているのですが、周りは普通に働いていますし、仕事を頼まれることもあり、予定どおりに退勤しづらいのが現状です。仕事を頼んでくる同僚も、早番だと気づくと謝って退勤を促してくれるので、悪気があるわけではないのだと思いますが……。何か良い方法はあるでしょうか。
多様な時間帯での働き方をスムーズに運用するには?
病院は24時間365日営業ですから、医師や看護師だけではなく、すべての職員は何らかの形で交代勤務をしています。夜間帯の勤務がないとしても、たとえば栄養科であれば朝食の提供から夕食の下膳の確認までの時間は誰かが勤務していられるようにシフトを組んでいるところが多いと思います。
主に外来を利用する患者さんへの対応がメインの医事課も同じです。外来の受付開始前には患者さんを迎える準備を整える仕事がありますから、8時受付開始であれば7時頃から出勤する担当を配置しています。また、夜間帯への引き継ぎのため、19時くらいまで勤務する遅番を置いている病院もあります。7時から16時の勤務、10時から19時の勤務など、1~2時間ずつ通常の勤務時間からずらして職員を配置することで円滑な運用もできますし、残業の負荷も軽減されます。
ご相談者の病院でも毎日ローテーションでの早番制度があるのですね。30人ほどの医事課職員がまだ仕事をしているなかで、16時になったからといって、なかなか帰りづらいとのこと。16時であれば、まだ外来患者さんもいる時間ですから、確認作業などを頼まれることもあるでしょうし、「私はもう帰る時間なのに」と思ってもなかなか言えない、というお気持ちはよくわかります。朝礼で「本日の早番は○○さんです」という報告があっても、全員が覚えていないこともありますし、あとから「あ、早番だったのにごめんなさい。もう帰って良いよ」と言ってもらえることもあるそうなので、頼むほうも悪気があるわけではないのだと思います。
同じようなことは病棟の看護師さんにも起こっています。日勤帯と夜勤帯の入れ替わりの時間帯などで、帰り支度をしていても、患者さんや医師から声をかけられたりしますし、時には看護師同士でも「ちょっと手伝って」という声がかかり、なかなか帰れないことがあるようです。
そこで、ある病院の看護部では、勤務帯ごとにユニフォームの色を変えて、(日勤帯はピンク、夜勤帯はブルーなど)、自分たちも、また周囲からも「働き方」が見えるようにする取り組みを導入したそうです。これにより、「この人は今から勤務の人」「この人は退勤する人」というのが、誰が見てもわかるようになり、残業が減少したという実績も報告されています。
違う働き方をしていることを見える化するための工夫を
事務職員の場合、この看護師の事例のようにユニフォームをすべて変えるわけにはいかないと思いますが、「早番」であることがわかる、何らかのマークがあると良いと思います。
以前、病院周辺の環境管理の巡回を事務職員が交代で行っていた時に、近隣住民の方から「病院の職員が仕事をさぼって、うろうろしている」というお電話をたびたびいただいたことがあります。確かに毎日、同じ時間に駐車場の植え込みや、排水溝をのぞきながら歩いていたら不信に思われますよね。その後は、「環境巡回中」という腕章をつけてラウンドを行うようにしました。
医事課の「早番」の目印として腕章やたすきは大げさかもしれませんが、名札にリボンやバッチなどで「早番」マークを付けたりするだけでも、良いと思います。「早番なので上がります」と職場の方に声をかける時に、その早番マークを医事課の所定の場所に戻すことで、「今日の早番職員は帰宅した」こともわかります。
人生100年時代を迎え、今後は多様な働き方が認められるようになりますので、働き方がわかるようにすることはとても重要です。ちょっとの工夫で「違う働き方」をしていることを「見える」ようにすることができます。こうした取り組みにより、互いを気づかい合う、働きやすい職場環境づくりをしていきましょう。さらに将来的には、そのような工夫をしなくても、「早番なので今日は上がります」と誰もが当たり前に言えるような、「心理的安全性」が担保される環境をつくっていけると良いですね。
〈石井先生の回答〉
「早番」の目印をつくると良いと思います。働き方の違いを見える化することで互いが気づかい合えるようになり、働きやすい職場環境になっていきます。将来的には、誰もが「時間なので退勤します」と言える、心理的安全性の担保された職場を目指していきたいですね。(『月刊医療経営士』2023年6月号)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか