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在宅事業で高収益体質をつくる
これが物価高対策の正解だ

患者の早期退院を目指す在宅支援や介護連携で
物価高に負けない高収益体質をつくれ

物価上昇に連動する診療報酬増は現実的か

日本医師会などの医療系の6団体は、物価・賃金高騰に対応するには十分な原資が必要だとして、医療分野の物価・賃金対策を求める要望書を出した。一般企業が行っているように、原価の上昇に応じて販売価格を上げるのは当然であろう。来年の診療報酬改定で物価高を反映していくのがあるべき姿である。医療界としては是が非でも実現させたい要望であるが、一方で診療報酬のプラス改定は財源的に難しいのではないかという声も聞こえてくる。
そこで、医療経営士としては、診療報酬が上がらなかったことを想定したプランも考えなければならない。物価高に応じて診療報酬がプラスに評価されるということは、今までと同じことをやっていても、収益が上がることを意味する。近年はそのようなプラス改定になったことはなく新規の施設基準を満たすため、新たな取り組みを実施したり、人員配置をしたりすることで、やっと収益を上げられる状況であった。今後もこの流れが変わらないことを前提とすると、物価高と賃金アップにどのよっに対応していけばいいのであろうか。

業務プロセスを見直し人を増やさずに収益を増やす

国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、2042年まで高齢者人口は増え続ける。それに伴って医療・介護費も増えていくことが予測されている。18年に53.5兆円だった医療・介護費が40年には94兆円になると推計されている。
その需要に対して、提供側である医療・介護業界で働く従事者数は18年に826万人であったのが、40年には963万人へと増加することが見込まれる(図表)。単純に、医療・介護費を従事者数1人当たりに換算すると、約648万円から約976万円へと大幅に増加することになる。

※2018年度の国民医療費は43兆3949億円。介護費は10兆1129億円。

図表 医療介護従事者数の将来予測

出典:2022年度第1回医療政策研修会第1回地域医療構想アドバイザー会議資料

医療・介護従事者数は増加していくが、周知のとおり病床数は減少しており、病院が増えることは考えにくい。需要増の受け皿としては医療の病床ではなく在宅となっており、実際に介護施設や在宅医療を提供するプレイヤーはじわじわと増えている。マクロ的に見ると、このことが一つの道筋になるのではないだろうか。
従事者1人当たりの収益が上がるということは、生産性が今よりも高くなることを意味する。もちろん、そのためにはさまざまな効率化や、多方面で叫ばれている医療DXなどを推進することが求められる。

病院に置き換えて考えると、病院という建物内で働く人の数を増やすのではなく、今いるスタッフ数でより収益を高めていくことを意味する。では、どうすれば今以上に収益が増えるのかというと、現行の診療報酬では滞在日数を短くして高回転化させることが単価増につながる。
もちろん、手術件数が増えたり、入退院数が増えたりすると手間がかかり、それに伴い人員の補充が求められてきた。しかし、そこで人を補充していては、1人当たりの収益は増えない。人を補充するのではなく、業務プロセスの見直しで増える業務量を吸収する必要がある。それができないと、物価高や他産業で実施しているような賃金アップが実現できない。

高回転・高収益化には介護との連携が不可欠

しかし、この病床の高回転化については、一つの病院としてできる範囲は限られている。退院先の確保ができているかによって、高回転化ができるかどうかは決まる。同じ特別養護老人ホームや老人保健施設、有料老人ホームといっても、看取りができるかどうか、医療行為が必要な患者を受け入れられるかどうかは、施設によってバラバラである。退院先の制限が多ければ多いほど、滞在日数は伸びてしまう。病院からすると柔軟に患者を受け入れられる退院先をどのように確保していけるのかが、病床の回転を高めるカギとなる。

退院先を確保する戦略を、自前化と連携による提供の2つに分けて考えてみる。自前で準備する場合、より急性期寄りである医療側で、早めに退院できるような在宅サービスを提供し、これまで在宅医療か困難であった患者が退院できるようにする。在宅医療や在宅施設を始めるわけだ。もう一つは、すでにある地域資源との連携で実現する方法である。地域医療連携推進法人となる、あるいは別法人であるが関係を密にし、退院先の機能を上げていくことで、早期退院を実現していく。
どちらの場合も、医療だけを提供していた病院にとってみると、介護の分野に首を突っ込まないと、退院先のレベルアップは難しい。医療保険しか扱ってこなかった病院が、介護の訪問サービスを始める。特養や老健といった介護施設に医療人材を送り込み、医療水準を高めていく――などを進めるためには、介護保険の知識は不可欠であり、介護従事者の考え方や特性を知ることが必須だ。地域資源を持つ他法人とうまくコミュニケーションをとることも必要であろう。

自分の病院は安泰だと、院内でふんぞり返っていては退院先の育成はできない。医療が上で介護は下という、上から目線もご法度だ。医療経営士としても、医療保険だけでなく、介護保険についても深く理解することが求められる。物価高の影響を診療報酬で吸収できないことを想定し、より筋肉質な経営体質に舵を切ることを考えていかなければならない。(『月刊医療経営士』2023年6月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

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