MMS Woman Lab
Vol.105
業務・運用の見直しを行い
効果的にデジタル化を推進する
<今月のお悩み>当院ではDX推進のためIT推進室を設置し、電子カルテをはじめ各種システムの導入を進めています。今回、業務改善の視点から、患者さんへの説明を動画で行えるよう、外来や病棟にタブレットが配布されました。しかし、タブレットの貸し出し管理にはじまり、視聴状況の確認、同意書へのサイン準備などのために患者さんの情報を何度も入力する必要が出てきてダブルチェック項目が増えています。これ以外にも、逆に業務が増えたように感じる場面があるのですが、どのように見直しを行えば良いでしょうか。
デジタル化によるメリットを十分に得られているか
昨年秋に医療DX推進本部が設置され、DXに関するセミナーや雑誌の特集など、情報発信も増えてきているように感じます。すでに医療機関ではマイナンバーカードを保険証として利用するなど、デジタル化に向けた準備が進んでいますし、先日は介護保険証もマイナンバーカードに一本化する方針が示されました。いよいよDXの推進に向けた具体的な動きが加速しそうですね。こうした状況を踏まえてご相談者の病院では、IT推進室を設置して準備を始めているとのことですから、先進的な取り組みもされていることでしょう。
すでに電子カルテも導入されているということですから、患者情報の共有もしやすい環境が整っていると思われます。さらに今回は、患者さんに入院案内や各種検査の事前説明の動画などを見ていただくために、各外来、病棟にタブレットが配布されたわけですね。しっかり予算も取って取り組まれているようです。このように、同じ内容を繰り返す説明などを動画にして省力化する動きはさまざまな業界で進んでいますし、業務改善の一つの方法です。
ところが、実際にはタブレットの貸し出し、動画視聴の確認、タブレット内の利用者アンケート、同意書へのサインなどの準備のために患者さんの情報を何度も入力する必要が出てきて、ダブルチェック項目が増えているとのこと。本来目指していた業務の効率化につながっているかどうかが微妙な状態で、運用の工夫が必要になっているようですね。では、どのように運用の見直しに取り組んでいったら良いでしょうか。
今回のタブレットの件以外でも、日頃の運用のなかで重複している作業がないかどうか、一度見直してみると良いと思います。デジタル化のいちばんのメリットは、一度入力された情報を、再度入力しなくても良いこと(入力のワンストップ化)です。相談内容を聞く限り、そのメリットが十分に得られていないのではないでしょうか。また、さまざまなシステムの導入に伴って一部の業務はIT化されているのに対し、たとえば、確認のための台帳が手書き運用であったり、同意書が電子力ルテと連動しない紙運用であったりしていませんか?
「隠れた事務作業」もデジタル化の対象に
電子カルテは病院全体で使用するシステムですが、「診療」という業務に関しては情報が十分に共有されていても、患者さんにかかわる事務作業にはその情報が活用されていないことがあります。具体的に言うと、入院や退院が決まった患者さんのリスト、手術の予定表などは電子カルテで確認ができますが、その機能を使わずに、紙カルテの時代から使っている台帳や予定表などを使い続けているという話をよく聞きます。院内の共有フォルダのエクセルへの入力手書きの台帳への記載などによって、かえって「仕事が増えた」と感じている人もなかにはいるかもしれません。
そのような現場独自の運用は、「隠れた事務作業」になってしまい、病院全体でデジタル化を進めているなかでも気づかれずに置き去りにされてしまっていることがあります。せっかくのデジタル化ですから、自分たちの業務も簡素化できるように、運用の見直しをしていくと良いでしょう。その際、「今までこの運用でやっていたのに」とか「手書きのほうが作業が楽」いう気持ちになるかもしれませんが、今後は働き手が減りますし、働き方改革に伴って他職種からのタスクシフトも増えてくる増えてくることが想定されますから、作業が今以上に減って暇になることはないと考えるべきでしょう。
まず、現状で同じ作業を2回以上しているようであれば、「なんとか1回で済ませられないか」「作業を統一できないか」という視点で業務を見直してみてください。改善の方向性が見えてくるはずです。また、その際、自分たちだけで悩まないことも大切。上長からシステム担当者に相談してもらい、デジタル化を助けていただきましょう。システムに関する専門的立場から助言をもらうことで取り組みの効果も高まると思います。
〈石井先生の回答〉
デジタル化のメリットが十分に得られていないのかもしれません。日頃の運用で重複している作業がないかを見直してみてください。また、同じ作業を2回以上しているようであれば1回で済ます方法をシステム担当者にも相談しながら考え、本当の意味で効果のあるデジタル化を推進しましょう。(『月刊医療経営士』2023年4月号)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか