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少子化対策で成果が出るかは疑問
少ない人材を前提とした仕組みが必要
人材不足は今後本格化する
IT化の推進を含めて少人数で仕事を回せる仕組みづくりが急がれる
これまでの少子化対策
日本の少子化問題は、1980年代の高度経済成長期の終わり頃から顕在化してきた。晩婚化や核家族化、女性の社会進出などが進んだことで出生率が低下して少子化が進行することとなった。1990年には合計特殊出生率が1.57と、「ひのえうま」という特殊要因により過去最低であった66年の値を下回った。その後、政府は出生率の向上を目的として、さまざまな政策を打ち出してきた。
政策の一つが育児休業である。育児休業制度は35年に施行され、育児に専念するために労働を中断することができるようになった。91年には育児休業法が制定され、出産後1年間の育児休業が定められた。
さらに2015年には育児休業および介護休業の取得の促進等に関する法律が制定され、育児休業の期間の延長や、男性の育児休業取得を促進するための措置が取られた。19年には育児休業法が改正され、育児休業中の時間外労働や休日出勤を義務づけることが禁止された。直近では、働き方改革のもと、企業が積極的に育児と仕事のバランスを取りやすくする施策が進められている。
次に、幼稚園や保育園の拡充も、少子化対策の一環として進められてきた。1985年には保育所等整備事業が始まり、保育所や認定こども園の整備が進められた。
その後も、幼稚園・保育園の無料化や保育士の待遇改善、保育所の新規開設などが行われ、近年では地域ごとに待機児童ゼロを目指した子育て環境の整備が進められてきた。
これらの環境整備にとどまらず、お金を支給する施策もある。2006年に子ども手当が創設された。これは、子どもがいる世帯に月額1万2000円~1万5000円の支援を行う制度である。19年には子育て支援新制度が再度改正され、子ども手当が拡充された。これにより、子どもが3人以上いる世帯に対しては、1人につき月額1万5000円の支援が行われるようになった。
20年には新型コロナウイルス特別児童手当が創設され、最大10万円が支給され、翌年には最大20万円に拡充された。この手当の支給は年収が高い世帯へは所得制限があるが、制限の見直しについても議論がされている。
こうした少子化対策を長年してきたが、22年の出生数が前年比5.1%減の79万9728人(外国人を含む速報値)と発表された。
80万人割れは初めてで(図表1)、国の推計より11年も早い到達である。結婚数の減少に加え、コロナ禍の経済の混乱も妊娠・出産をためらう要因となった。行動制限などは和らいだものの出生数が反転する兆しは見えない。22年12月の月ごとの出生数は前年同月に比べて6.8%減った。
図表1 出生数・自然増減数の推移
人手不足への対応
ここまで長らく対策をしてきても結果が現れないとなると、少子化対策が功を奏することを期待するより、少子化問題は解決されないことを前提に考えないとならない。医療機関の経営上の課題で、人材不足が上位に上がらないところはないだろう。
少子化が進むということは社会全体の就労人口が減っていくことになる。医療に関する就業者数は年々増えているが、高齢者の増加に伴い今後増える需要に対して、人手不足が深刻になると推測されている(図表2)。
目下の対応として、ICT導入による業務の効率化、高齢者や短時間労働者などの潜在労働力の活用、外国人労働者の活用、といった対策が取られている。しかし、こうした対応により、労働力が現状の半分で済むようになる、というものではない。やはり、主力で働く人材は必要である。
図表2 医療・福祉の就業者数の推移
出典:2022年版 厚生労働白書
医療や介護がやりがいのある仕事であることは間違いない。しかし、労働者の視点からすると他産業との比較になる。IT、金融、広告など、より華やかな産業もたくさんある。イメージだけでなく、給与面も重要だ。
一昔前は看護師の給与は比較的高めのイメージがあったが、一般産業の賃上げに伴い、必ずしもそのような印象ではなくなってきている。診療報酬が改定のたびに下げられ、賃金を上げようにも原資がない。公立病院と同じような給与水準を民間病院で支払えるところは少ないであろう。
やりがいがあるけれど、昼夜、土日休みなく、給与も高くない。こんな業界イメージになると、働き手が集まらなくなる。子どもが増えないことが前提の社会で、どう人材を確保していくのか、個々の医療機関での努力はもちろん、業界全体の努力が不可欠であろう。(『月刊医療経営士』2023年4月号)
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)