MMS Woman Lab
Vol.104
働き方や教育の変化に合わせて
長期的な成長のイメージを示す

<今月のお悩み>病院で人事を担当しています。現在、医事課職員の募集をしており、採用面談の準備をしているのですが、応募者からの質問事項として「キャリアパスを示してほしい」という要望がありました。面接を行う事務部長にこれを伝えたところ、「外部に見せるものではない」との返事。しかし、今後は入職後の教育体制やキャリアパスを気にする応募者が増えていくと思いますし、どう対応したらよいでしょうか。

応募者からキャリアパスを見せてほしいと言われたら?

新年度の準備がそろそろ始まっている頃でしょうか。総務人事を担当する部署では、4月に新入職員を迎える準備のため、1年間で最も忙しい時期を迎えますね。すでに必要な人員が確保されていれば良いのですが、「あと数人、採用が追いついていない」という状況であれば3月ギリギリまで採用面談が続く病院もあることでしょう。

人事担当者として採用面談の準備をしているなかで、応募者からの病院への質問事項に「キャリアパスを示してほしい」という文言があり、面接を行う事務部長に伝えたところ、「そんなものは見せられない」と言われたというのがご相談ですね。こういった要望は最近増えているようです。
今回は医事課の職員の採用面談とのことですから、全く知識のない人からしたら、医事課職員とてどんなスキルを身につけて、どれくらいの期間で医事業務ができるようになるのかなど、不安が多いのだと思います。何年くらいでひととおりの業務を経験するのかなど、病院の事務職員としてのキャリアパスを口頭で説明できると、応募者は少し安心できるのではないかと思います。
事務部長が言うように、病院内で実際に運用している個人の目標管理シートや人事評価の項目キャリアラダーなどをそのまま見せるわけにはいきませんが、説明用のちょっとした資料などの準備があると良いかもしれませんね。

数年先にどうなっているのかのイメージを提示する

実は、入職後のキャリアパスが知りたいといった要望が増えてきている背景には「働き方」の変化もあるようです。
終身雇用という言葉があまり出てこなくなったように、人生100年時代においては、「一つの職場で定年まで勤め上げる」という働き方だけではなく、2~3年で職場を変えながら知識やスキルの幅を広げたり、その時の自分の生活スタイルや思いに一番合う仕事をしていく働き方を選ぶ人たちも増えているようです。
こうした働き方の変化を踏まえた対応が求められるようになっています。新たな職員を受け入れるにあたって、「ゆっくり学べば良い」「すぐに慣れるから大丈夫」「みんなで教えるから安心してほしい」といった言葉がよく聞かれました。温かさが感じられてとても魅力的だと思います。しかし、自分のキャリアを考えながら仕事を選ぶ方々にとっては、「この職場に何年いるとどのようなスキルが身につくのか」「3年で何ができるようになるのか」など、短期的なゴールを見たい、成長イメージを持ちたいというニーズがあるようです。

また、受けてきた教育のあり方が変わったこともキャリアパスを知りたいと考える人が増えている要因と言えます。
今では当たり前となっていますが、大学などでは、授業科目、講義ごとにシラバスが公開され、何を学べるのか、どんな事柄を理解すれば良いのかなどの到達目標が明確に示されるようになっており、学生はそれを見て自分で受講する科目を選んでいます。また、中学や高校の教科書などにも「ねらい」として学ぶべき項目があらかじめ示されていますから、「到達イメージを持ちながら学びを進める」という環境のなかで育ってきているという背景も大きく影響していると思います。
今回の応募者が数年で転職することを考えているわけではないと思いますが、医事課職員として採用されて、ひととおりの業務ができるようになったら、次は診療実績管理や病院の収支管理、看護師の採用、医療安全管理などさまざまな業務を経験できるようなジョブローテーションがあることや、いずれ病院の経営管理の責任を担うようになることなど、長期的な成長イメージを示すことができると、期待をもって就職してくれるかもしれません。

幼稚園の入園式では、年長クラスの園児たちがお祝いの言葉や合唱を披露する場面があります。不安いっぱいの入園児の家族は年長クラスの園児の姿を見て、「1年後には我が子のこんな姿を見られるのかな」と勇気をもらっていたりしますよね。少し先の成長イメージを示すのは大切なことなのかもしれません。

〈石井先生の回答〉

働き方や教育の変化により、どのような知識やスキルが身につくのか、どんな仕事ができるようになるのかなどを知ったうえで働きたいと考える人が増えています。「少し先の成長イメージ」を示すことで、安心して入職してもらえるのではないでしょうか。(『月刊医療経営士』2023年3月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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