MMS Woman Lab
Vol.103
指示命令系統を無視した動きは
職場の混乱を招くことになる
<今月のお悩み>医事課長を務めています。先日、外来の会計処理を担当している職員が持ち場を離れていました。1時間ほどで戻ってきた職員に事情を聞くと、総務課主任に声をかけられクリスマスの飾りつけの片づけを手伝っていたとのこと。思わず声を荒げてしまったのですが、「課長には話が通っていると思っていました」と言われ、困惑してしまいました。私に報告もなく勝手なことをした職員に対し、どう対応すれば良かったのでしょうか。
報告もなく持ち場を離れていた職員にどう対応すべき?
まだまだ感染症の影響があるなかで、年末年始の不規則な勤務シフトもあり、医事課の人員配置が難しい時期ですね。体調を崩す人が多い季節は予約外の外来患者さんの来院も増えますから、時間帯によっては外来受付担当への応援も必要になります。
医事課長としては、外来の混み具合を見ながら、入院や書類担当の職員を応援に出したり、他部署への応援要請をするなど、臨機応変に対応していることと思います。そんななかで「外来の会計処理を担当しているはずの職員が持ち場にいない」となると、どこに行ったのか、具合が悪くなってしまったのかなど心配になります。
1時間ほどして戻った職員に事情を聞くと、「総務課の主任に声をかけられてクリスマスの飾りつけの片づけを手伝いに行っていた」とのこと。これは驚きますし、ちょっと困ってしまう状況です。感情が昂ぶり怒ってしまった、ということですが、職員からは「課長は知っていると思っていました」という返事が返ってきて、さらに困惑してしまったのですね。
医事課の職員に対しては「勝手なことをして」という感情が、総務課の主任に対しては「勝手にほかの部署の職員を使わないで!」という気持ちが湧き上がってくるのもわかりますが、少し冷静になって考えてみましょう。
指示命令系統の乱れを防ぐ丁寧なコミュニケーションを
まず、「勝手に」という感情の背景は、「所属長である私に相談がなかった」という状況がありますね。ここが最も重要なポイントだと思います。
病院は役割に合わせて組織が部や課に分かれていても、横断的に動くことが多い職場です。日頃から忙しい時には部署の枠を越えて応援し合うことがありますから、「片づけの手伝いに行った」こと自体が悪いわけではありません。仲の良い主任から「ちょっとお願い」と声をかけられて、上長に相談なく自分の持ち場を離れて出かけてしまったことが問題なのです。それを理解していないどころか、他部署への応援ということで本人はむしろ良いことをしているという気持ちになっていたかもしれません。
一方、お願いした総務課の主任側も、自部署の上司である総務課長に相談し、医事課長の了解を得たうえで医事課職員に声をかけるべきだったのです。
所属長は、各職員がどの仕事をしていて、どれくらいの業務量があるかを把握して全体の人員配置をしていますから、予定外の作業が発生した場合には、メンバーの業務量を見ながら采配をしていきます。そのことを、職員たちも知っておく必要があります。ある程度自分の采配で時間配分をしながら仕事を進めることが認められている職員であっても、持ち場を離れる時、他部署の応援に出る時などは、上長の了解があっても「今から行きます」という報告をするの職場の礼儀です。
今回はこの所属長の采配を全く考えず、さらに自分の行動を所属長に報告するという職場での基本を、総務課主任も医事課職員も行わなかったことが一番の問題です。この背景には何があるでしょうか。
日頃から、他部署の応援に行く時に、所属長同士で相談して決めていることを職員に伝えていたでしょうか。職場を離れていた職員がいた場合、「どこに行っていたの?」と声をかけていたでしょうか。もちろん、あまり頻繁に声をかけると、「見張られている」と職員に感じられてしまう危険性もありますが、どこに行くか言わずに席を立つ、持ち場を離れるのが「習慣」になってしまっていないでしょうか。
「行ってきます」「ただいま」というごく簡単なやりとりで済むことですし、どこに行ったか心配、という気持ちを表すことで、円滑にコミュニケーションを取れると思います。
ちょっとした気づかいを怠ることで、指示命令系統が乱れるきっかけをつくってしまいます。指示の流れが乱れると、職場が混乱し、職員が働きにくくなるという悪循環を生んでしまいます。そうならないために丁寧にコミュニケーションをとることを心がけましょう。
〈石井先生の回答〉
組織横断的に動くことが悪いわけではありませんが、職場に混乱を生まないために、指示命令系統はしっかりと守ることが大切。職員にとって働きやすい環境をつくるためにも、日頃から丁寧なコミュニケーションをとることが大切です。(『月刊医療経営士』2023年2月号)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか