MMS Woman Lab
Vol.102
対話を生み、意見を引き出す
相手が受け止めやすい表現法とは

<今月のお悩み>病棟クラークとして働いているため看護師と接する機会が多いのですが、会話が難しいと感じることがあります。多忙なのは十分理解しているつもりで、なるべく忙しくなさそうなタイミングを見計らって話を切り出すようにしていますが、なかなかきちんと話を聞いてもらえません。先日、書類の提出期限を確認した際も、「そんなことわかってます!」と強く言い返されてしまい、何も言えなくなってしまいました。

言葉の選び方や表現の工夫でコミュニケーションを円滑にする

「ワークライフバランス」という言葉がありますが、ライフに占めるワークの時間はそれなりに長いですよね。家族や友人と過ごす時間より、職場のメンバーと過ごす時間のほうが長い時もあると思います。1日の多くの時間を過ごしている職場の人間関係は、ストレスなく過ごしたいものです。
どんな職場でも同じだとは思いますが、急いでいたり、一度に複数の作業に対応していたりすると、他者への言葉かけが雑になったり、声が大きくなってしまうこともあるでしょう。
また、いつも忙しい印象がある医師や看護師に声をかける時は少し緊張しますね。職員でさえ気を使うのですから、患者さんたちはもっと声のかけにくさを感じているかもしれません。医療者側からお声かけするような気配りも必要でしょう。
病棟でクラーク業務をしているなかで、看護師さんとの会話の難しさを感じているとのことですが、ちょっとした言葉の選び方や表現の工夫で、誤解を防いだり、嫌な気持ちを感じにくくすることができますので、円滑なコミュニケーションのためのポイントをお伝えします。

アイメッセージを使うことで相手の受け取り方が変わる

年末になると病院への提出書類なども増えますし、特に締め切りが迫っているものなどは「早く」仕上げてほしいと焦ってしまいますね。そんな時に「○○さんはいつも遅れるので、今日中にお願いします」と相手に伝えたらどうなるでしょうか。「くどくど言わなくても、わかっているわよ!」と強く主張してくる人、「いつもすみません」と言って落ち込んでしまう人、相手によって反応はさまざまでしょう。

他者との対応時における表現の傾向については、自己主張をしっかりできる「アグレッシブ(攻撃)タイプ」、自分の意見をきちんと言えない「ノン・アサーティブ(非主張)タイプ」、そして、場面に合わせて自分の素直な気持ちや意見を伝えられる「アサーティブ(協調タイプ)」に大きく分けることできます。
「○○さんは××よね」という決めつけ表現で語りかけた場合、相手がアグレッシブタイプの場合は衝突、摩擦、否定などが起こりやすくなります。一方、相手がノン・アサーティブタイプの場合は落ち込んでしまったり、不満を感じたり、自分のことをわかってもらえないと思ってストレスに感じてしまっことがあります。受け取り方によってはハラスメントに発展してしまうこともあります。
そうならないためにも、「伝え方」が大切です。決めつけ表現にならないようにするために、アイ(I)メッセージという手法を使ってみましょう。
これは主語を自分にする表現方法です。たとえば、先ほどの「○○さんはいつも遅れるので、今日中にお願いします」という言葉を言い換えると、「私は○○さんの書類が遅れてしまうのが心配なのですけど、本日中に……」という表現になります。こう言われれば相手も「そんなふうに心配されているんだ」と受け止め、もしその日のうちに提出するのが難しいようなら、相談する気持ちになるかもしれません。
主語を相手にすると、否定的に聞こえたり、決めつける言動になってしまう場合がありますが、主語を自分にすると、相手がメッセージを受け取りやすくなり、「対話」が進み、相手の「意見」を引き出しやすくなります。

またアグレッシブタイプの方は、自分にとって普通の表現でも、言動に配慮が欠けてしまうことがあるため、相手の意見を受け入れないように思われ、人間関係の摩擦が起きやすい傾向があります。自分はアグレッシブタイプだと感じる方は、「あなたは」ではなく「私は」で語り始めるアイメッセージを心がけてみるのも良いと思います。
一方で、相手から強めの言葉をかけられて「そんな言い方をしなくても」と感じてしまった時も、落ち込む気持ちはあるかもしれませんが、「私には少しキツい言葉に感じます」とアイメッセージを使って伝えてみましょう。そこから対話が生まれ、相手の考えや思いが見えてくるのではないでしょうか。

〈石井先生の回答〉

コミュニケーションに関する悩みは多くの職場で耳にします。原因はさまざまですが、コミュニケーションが円滑でない場合は、言葉の選び方や表現を工夫してみてはどうでしょうか。今回紹介したアイ(I)メッセージなど、相手がメッセージを受け取りやすい表現を取り入れてみてください。(『月刊医療経営士』2023年1月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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