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かかりつけ医登録制度の議論が本格化
地域医療へのインパクトと対応策を検討せよ
かかりつけ医の登録制度は早晩新設される可能性が高い
同制度で地域医療はどう変わるか
マーケットの変化を見逃すな
かかりつけ医をめぐる議論
焦点はフリーアクセス
厚生労働省社会保障審議会医療部会(9月29日)で「かかりつけ医機能」についての議論が開始された。
かかりつけ医のあり方については、これまでも何度も協議がなされてきた。実際に同審議会の資料でこれまでの議論の経緯が示されているが、2020年からいくつかの協議体で取り上げられてきている。
このタイミングで再度、議論の俎上に載ったのは、財務省財政制度等審議会が取りまとめた「歴史の転換点における財政運営(いわゆる「春の建議」)」を受けてのことであろう。
同建議ではコロナ禍においてかかりつけ医の機能が十分ではなく、受診に支障をきたしたことを挙げている。そして、患者の希望により事前登録を促す仕組みを導入することで、有事においてもかかりつけ医を機能させることができると指摘している。
それを受けて、日本医師会をはじめ、医療系の団体が問題点を提起している。たとえば、日本医師会はかねてから、かかりつけ医の登録制や外来包括制は反対しており、今回もその姿勢を貫いている。
細部はともかく大きな論点としては、登録制を設けると日本の医療制度の特徴である、「いつでもどこの医療機関でも受診ができるフリーアクセスを担保できなくなる」という点である。
ちなみに、フリーアクセスが担保されているがゆえに、大病院での外来が3時間待ち3分診療となっていたり、外来の受診回数が年間12.6回とOECD平均の倍になったりしている。
一方で、諸外国であるようなMRIの検査に3カ月待ちという状況はない。患者の求める医療をタイムリーに提供できることがメリットと言える。
さて、今後どのような議論が繰り広げられ、結果がどうなるのか興味深い。日本病院会もかかりつけ医に関する提言をまとめており、医師個人ではなく医療機関の機能として対応すべきと発表した。以前からの財政審の強い要望もあり、何らかの登録制度が設けられる可能性はある。
かかりつけ医を評価した地域包括診療料の行方は
では、具体的にどんな制度として導入される可能性があるだろうか。参考になりそうなのが、かかりつけ薬剤師の制度である。
実際に先述の春の建議においても、「薬剤師・薬局については、かかりつけ薬剤師・薬局の推進に向けて、法制上の対応が進んでいる」とされている。薬局への診療報酬でかかりつけ薬剤師指導料、かかりつけ薬剤師包括管理料という点数があり、1患者に1人のかかりつけ薬剤師を登録することとなっている。
具体的には患者さんから同意書を記載してもらい登録する。かかりつけ医で議論されているような1医療機関での登録ではなく、1薬剤師を登録するようになっている。毎月変更が可能であるが、同一月に複数の薬剤師を登録することはできず、患者さんが複数の薬局を利用する際にはかかりつけ薬剤師がいることを申し出ることとなっている。複数の薬局から同一点数が算定された場合は、基本的には査定されることになる。
これが医科の診療報酬に応用されるとなるとどうなるか。かかりつけ医を代表する診療報酬として「地域包括診療料(加算)」がある。複数の慢性疾患を有する患者に対して、継続的・全人的な診療を行うことを評価する点数である。現時点では包括的に管理することを患者さんに説明して同意を得る必要があるが、かかりつけ医として登録し、それ以外の医療機関や医師による登録ができなくなる、といったことは明記されていない。実際に複数の医療機関から算定された場合に査定されるのかは不明だが、薬局のかかりつけ薬剤師指導料と異なり、明記されていないため基準がグレーな状況と言えよう。一方、同じような医学管理を複数の医療機関で実施した場合に、片方が査定されることが明確になっている診療報酬項目もある。たとえば、在宅時医学総合管理料を算定している患者に対して、別の医療機関で在宅寝たきり患者処置指導管理料や生活層病管理料など、先の点数と併算定不可の診療報酬を算定すると査定される。
こうした既存の制度を応用すると、地域包括診療料(加算)を医師ごと、もしくは医療機関ごとに登録させ、同一月の複数医療機関による算定は不可ということを明確にしさえすれば、財務省が求めているかかりつけ医の登録制度に近づくことになる。
もしもそのような点数変更をすれば、財務省がかかりつけ医制度に求めている、継続的・横断的に患者を診て、重複検査等の医療費の削減につながるのであろうか。逆に、厚労省や医師会が心配しているようにフリーアクセスが阻害されるのであろうか。
先行するかかりつけ薬剤師では、各種調査で成果が発表されているが、おおむねかかりつけ薬剤師に対する評価は高そうである。一方でポリファーマシーの解消といった薬剤費削減が実現したり、フリーアクセスが阻害されたりという目立った報告は今のところなさそうである。次回の診療報酬改定に影響するような議論であり、注視したい。(『月刊医療経営士』2022年12月号)
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)