MMS Woman Lab
Vol.100
事業計画実現に不可欠な予算管理
支出の「想定外」を防ぐ情報収集とは

<今月のお悩み>経理部門で物品購入を担当しています。先日放射線検査機器が故障し、購入しなければならない状況になりました。想定外の故障であったため予算取りもしておらず、購入費を捻出するために関係各所と調整を行い、更衣室のロッカーと採血カウンターのリニューアル工事を次年度に持ち越しました。診療への影響を最小限に抑えられたのは良かったのですが、次年度に持ち越された部署からは不満の声も上がっています。

予定外の突発的な支出にはどのように対応すべき?

いよいよ今年も下半期に入りました。上半期実績を参考に、今期支出予算をどこまで執行できるか、難しい判断をされている病院もあることでしょう。今期購入できなかった備品を次年度に持ち越すとなると、設備投資計画にも影響が出てきますね。
病院経営では、経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報の管理をしっかりと行うことが重要です。4つの経営資源のうち「カネ」の管理で最も重要なのは予算管理です。予算どおりに収入があり、支出を行うことによって事業計画が実現されます。ムダ遣いはしてはいけませんが、必要な支出(人件費や材料費など)を行わないと、医療の提供はできません。
経理部門で物品購入の担当をしているとのことですから、日々の消耗品から医療機器や什器備品などの高額な備品まで、幅広く取り扱っていることでしょう。診療に伴う消耗品類は、原材料費の大幅値上げなどがない限りほぼ予算どおりに進めることができますが、突発的な支出に対してはやりくりが必要になります。家庭の買い物に例えると、エアコンの故障、急な帰省の旅費などの「思わぬ出費」が発生した時に、「クリスマスのホテルディナーをホームパーティーに変更」「スーツの新調を諦めてもらう」といったやりくりを行うのと同じだと思います。
今回のように、検査機器の部品の故障は診療にも大きな影響が出ますから、すぐに対応する必要があり、購入のために限られた予算のやりくりが必要になります。予算を組む段階で、ある程度の予備費は設けているとは思いますが、購入予定だった更衣室のロッカーや検査科の採血カウンターのリニューアル工事を次年度に見送っ購入費を捻出したとのこと、関係各所との調整も大変だったことでしょう。

調整を行うにあたって「結局、事務部門のものは買ってもらえない」「いつもうちの部門は後回しにされる」など、見送りになった物品の申請を行っていた部門から寄せられる「苦言」は、残念な気持ちがわかるだけに心苦しいですね。

長期の購買計画を立てるには
現場からのリアルな情報収集を

一方で、「去年から調子が悪かった」「もう保守期間が切れていて修理代が高くなっていた」など、買い替え時期になっていたことが経理部門に共有されていれば、今期の予算に組み込めていたかもしれません。そうすれば、突発的な支出を防ぐことができたのではないでしょうか。
医療機器やシステムツールなど保守契約が切れるタイミングで買い替えるもの、減価償却が終わったタイミングで新調するものなど、物品によって更新時期がある程度予測できますので、高額な支出になるものは長期購買計画を立てたうえで年度予算に組み入れていくと、管理がしやすくなります。それでも急な故障で急遽購入しなければならないこともありますから、緻密な管理と臨機応変な対応は求められますね。

高額物品の長期購買計画を立てるためには、医療機器などを使用している医療現場からの情報提供も必要です。保守期間などは経理部門でも把握できますが、それ以外にも知っておくべきことがあります。予算作成の際に、各部門の物品購入希望について、次年度分だけではなく数年後の購入希望も出してもらうようにすると管理しやすくなると思います。「まだ使えるけれど調子が悪い」「すでに綻びが出ている」など、使っている人にしかわからない情報もあります。故障には前触れがあるものもありますから、こうした情報を事前に把握していればある程度予測もできます。
ある病院の栄養科の例ですが、患者給食用の大型炊飯器の一つが故障し、「すぐに買ってください!」と要望があったそうです。詳しく聞いてみると、1年ほど前から取っ手が割れて異物混入のインシデントがあったり、炊き上がりにムラができたりして提供できない量が増えたりしていたそうです。現場の人なら知っている「そろそろ壊れそう」という情報を購買部門にあらかじめ伝えておいていただけると、心構え(お金の準備)ができますね。
そもそもインシデントが発生した段階で買い替える必要があったと思いますが、この病院はもちろんすぐに炊飯器を買い換えたそうです。

〈石井先生の回答〉

機器の故障などによる予期せぬ支出はどうしても発生するものであり、限られた予算のやりくりが求められます。そうした事態をできるだけ避けるには、医療現場からの情報提供が大切。各部門が使用している機器やシステムがどのような状況なのかをしっかり把握し心構えをしておきましょう。(『月刊医療経営士』2022年11月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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