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高齢者数のピークは2042年
介護事業への投資は20年単位で検討せよ

高齢者数のピークは20年後
介護事業で勝ち抜いていくためには地域の高齢者と競合の動向を分析し
早急に戦略を構築する必要がある

介護マーケットの成長

高齢者向けの福祉や医療に関する課題を解決するために介護保険制度が始まったのが2000年である。それから20年以上が経ち、20年の介護費用の総額が10兆円を超えたという。ここで言う介護費用とは保険による介護給付費に自己負担分を加えた総額のことである。00年の介護費用が3.6兆円(11カ月分)だったので約2.8倍に市場が拡大し、この期間の年平均成長率は5.2%ということになる。結構高い成長率が安定的に実現してきたと言える。

市場拡大の要因は、もちろん高齢者の増加によるものである。同期間の65歳以上の被保険者の数は00年4月末の2165万人に対して、20年には3578万人と、1413万人(65%)増となっている。同期間の市場成長率のほうが高いのは、この間にサービスの供給体制が整備されていき、需要が広がったからだと考えられる。
高齢者数は増加しているが、対する介護保険の認定者数は00年に18.3%、20年に18.7%と大きく変動していない。ただし、地域による差は大きく、最も高い大阪府は22.3%、最も低い茨城県は15.5%と6.8%も差がある。

第一号被保険者1人当たりの給付費については、2020年が26.8万円で、02年の19.3万円から7.5万円(38.9%)増えている。こちらも都道府県による差があり、最も高い島根県は32.0万円、最も低い埼玉県は22.3万円と43.5%も差がある。
これらのことから見えてくるのは、「マーケット規模=単価×人数」とした場合、単価は増加傾向にあり、人口に対する認定者数の割合に大きな変動はない。ただし、単価も割合も地域により差があり、特に単価については大きな差がある。

続いて、サービスの種類ごとに介護費用の総額をみていくと図表1のようになる。サービスごとの分け方によっても総額は変わるが、規模としては介護老人福祉施設が1.95兆円と大きく、次いで、地域密着型介護サービス1.84兆円、通所サービス1.73兆円、訪問サービス1.56兆円、介護老人保健施設1.33兆円となる。ここまでが1兆円を超え、どんなサービスのマーケットが大きいのかがわかる。
参考までに、移行が進んでいる介護医療院については1588億円と、介護療養型医療施設の863億円の約2倍になってきており、既に介護医療院のほうが大きくなっている。

介護事業の経営戦略

経営戦略を練るためには現在地だけでなく、今後どうなるのかを考えることも重要になる。全国でみると2042年まで高齢者の数が増えていくと予測されている。
これは人口動態に基づくものなので、大きく外れることは考えにくい。つまり、先述のように認定率が大きく変わらないとしても高齢者人口が増えるので、今後さらに20年程度は介護市場が伸び続ける可能性がある。
20年という時間は一つの事業を立ち上げて投下資金を回収するのにギリギリな期間であろう。介護事業を新たに始めるかどうかという戦略は、もうそろそろ決めておく必要がありそうだ。もちろんこの数字は日本全体の値であるので、地域によっては既に高齢者人口が減少し始めマーケットが縮んでいるところもあるし、42年以降高齢者人口が増え続ける地域もある。地域の人口動態に合わせた戦略策定が求められる。

また、地域によって単価に大きく差があるということは、サービスの供給量も異なることを意味する。
図表2はサービス種別の第一号被保険者1人当たりの給付費の都道府県分布である。居宅+地域密着型サービスが多くて施設サービスが少ない大阪府のようなところがあれば、逆に施設サービスが高くて居宅+地域密着型サービスが低い高知県のようなところもある。1人当たりの支給額が高い島根県ではどちらも高くなっているのがわかる。
サービスが多いところは供給が過剰になっている可能性があり、新たに参入しても競争が激しいと予想できる。一方でサービスが少ないところについては、まだ市場の開拓余地があるかもしれない。しかし、代替する別のサービス、たとえば、施設サービスに対して医療療養病棟などがある場合も想定されるので、介護保険だけでなく俯瞰的に地域の資源を見極めることが必要になる。

新規事業に限らず、介護事業に関する施設の建て替え判断、地域連携としての介護事業の動向把握といった視点からも、地域の介護マーケットの状況については考慮していきたい。(『月刊医療経営士』2022年11月号)

図表2 第一号保険者1人当たり給付費

出典:厚生労働省 介護保険事業状況報告(2020年度)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

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