MMS Woman Lab
Vol.99
事務部門の事業計画と目標管理
診療報酬以外でも経営貢献ができる

<今月のお悩み>総務課に所属しており、次年度予算のヒアリングに向けた準備にかかわっています。次年度から、これまで医療部門のみで行っていた事業計画と目標管理を事務部門でも実施することになりました。総務課も目標値を設定するよう指示されていますが、どのように目標値を設定すればよいか見当がつきません。総務課の業務は診療報酬の算定に直結するものがなく、経営貢献の目標値を設定するのは難しいのではないかと感じています。

目標値を設定するにはまず業務を整理してみよう

暑かった夏もそろそろ終わり、気がつけば年度の半分が過ぎています。上半期決算、棚卸し、次年度予算のヒアリングなどもそろそろ始まる頃でしょう。
予算ヒアリングのための実績資料の整理は医事課や企画部門が行っているところが多いと思いますが、総務や経理の方々も一緒にかかわることがありますね。「部長ヒアリングまでに実績のまとめをお願いします」とか、「上半期の評価を記載してください。下半期に向けて目標の修正があれば……」など、連絡をしたり、記載を促したり、準備作業を行っているとのことですから、気疲れもあますね。
そんななか、病院方針として、次年度から事務部門も事業計画と目標管理を行うことが決まり、ほかの医療部門と同じように目標値の設定をすることになったとのこと、とても良い取り組みだと思います。初めての試みということで、どのように目標値を設定すれば良いか見当がつかないとのことですが、まずは総務課の業務をきちんと整理してみましょう。
これまでも年度計画を作成していたかと思いますが、内容としてはおそらく、人員計画、スタッフ育成計画、物品購入計画、年間行事計画などが中心だったのではないでしょうか。もちろん、総務課の業務を遂行するために必要な計画ですから、ここについては目標値なども設定しやすいでしょう。

日頃から行っている業務も気づき次第で指標にできる

一方で、診療報酬の算定につながるような仕事はしていないから、経営貢献するような目標値はないと思われているようですが、ここは少し考え方を変えてみましょう。
医療部門の目標として用いられる「手術件数〇件」とか、「受け持ち患者△人」といった指標は総務課には当てはまりません。しかし、病院として医療提供を滞りなく行うための支え手としての業務はたくさんあるはずです。
たとえば、医療安全管理体制を維持するためには、委員会の開催や職員全員に対する研修が必要です。その内容については医療安全の担当者が組み立てていきますが、総務課としては委員会の議事録がきちんと作成され、全職員が研修を受講しているかどうかを把握することが重要な業務になります。もちろん議事録はすべて作成する必要がありますからゴールは100%となりますが、指標としては、「委員会開催から1週間以内の議事録作成率□%」と定めて、早めの作成のためのサポートをすることで、施設基準維持への積極的な貢献を評価することもできます。
病院全体で平均在院日数を短縮する目標があれば、入退院にかかわる事務作業のスピードアップ、メディカルスタッフの負担軽減につながる取り組みの強化が重要なポイントです。患者さんが記載する入院にかかわる書類の集約化、入院時の説明動画の作成など、日頃から行っている業務も、病院全体の取り組みをサポートしていることに気づけば、指標として見ることができ、目標値を定めることができます。

具体的には、入院窓口への案内をわかりやすくすることによって、「窓口を探す患者さんや家族がいなくなる」という事柄も指標になるかもしれませんよね。患者さんやご家族が迷わなければ早く手続きに入れますし、案内のためにスタッフが手を取られる時間もなくなります。
また、総務課に限らず、薬剤部門や栄養部門などのように直接診療報酬を算定する業務がある部門であっても、それ以外の関連する業務で経営貢献しているところがたくさんあります。
このほか、平均在院日数短縮のためにはクリティカルパスの見直しも有効です。これは診療報酬改定のタイミングに合わせて医事課からの発信もできますし、栄養部門からの提案もできます。これも大きな経営貢献です。

今まで実施していなかった分、戸惑うこともあるかもしれませんが、せっかくの機会ですから、総務課の業務がどのように患者さんの満足度を高めることにつながっているか、メディカルスタッフの負担軽減につながっているかを考えてみると良いでしょう。

〈石井先生の回答〉

診療報酬を算定する業務だけが経営貢献ではありません。医療提供を滞りなく行う支え手として、病院全体の取り組みをサポートしているとわかれば、指標として捉えて目標値を定めることができます。せっかくの機会ですから、総務課の業務がいかに病院や患者さんに貢献しているか考えてみてください。(『月刊医療経営士』2022年10月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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