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国も都道府県も責任逃れに奔走
全数把握の見直しで首長は混乱

危機対応・有事対応は強力なリーダーシップが重要
何が社会のためになるのか勇気をもって前に進むべし

コロナ患者の全数把握
事務職の負担が大きい

新型コロナウイルス感染症患者を診ている医療機関では、患者の発生状況を保健所に連絡することになっている。これは、コロナが2類感染症扱いとなっており、結核などと同様に保健所が発生状況を全数把握することになっているからだ。各地域での発生状況をもとに感染対策を講じ、感染症の拡大を制御することが目的である。
これが、季節性のインフルエンザと同じ5類感染症扱いになると、全例の報告ではなく特定の医療機関の発生件数の報告(定点報告)だけで済むようになる。季節性のインフルエンザと言えども致死率は現在コロナと同程度であるが、定点報告で管理がなされている。
現在報告が求められている項目は図表のとおりで、情報量としてはそれなりに多く、感染症の特性がわからず、どのように広がっていくのか不明な時期には有用な情報なのであろう。

当初は、これらの項目をFAXや電話で保健所とやりとりして伝えていたが、現在はHER-SYSというシステムが構築され、そこから報告することとなっている。おそらく、多くの医療機関で入力しているのは事務職だと思われるが、受けている患者数がそれなりにあるところでは大きな業務負担であるのは明らかであろう。
情報を受け取る側の保健所としても、当初は感染経路を特定するために、さらに詳しく患者にヒアリングしていた。情報をもとに、医療機関の受診や入院の必要性を判断したり、ホテル療養や自宅療養を指示したりしている。
さらに、つい最近まで毎日症状が悪化していないか連絡をし、その状況に応じて対応することまでしていた。
なお現在は、感染者が多すぎて対応しきれないからか、感染しても重症化しなくなっているからか、保健所でそこまで対応しないところもあると聞く。

全数把握の見直しによってリーダーシップ不在が露見

全数把握をすることは医療機関とっても保健所や県の組織にとっても、膨大な手間がかかる。現場の声を受けて日本医師会や全国知事会が全数把握の見直しについて厚生労働省に対して要望をあげていた。
検討の結果、岸田文雄首相が出した答えが、全国一律ではなく各都道府県によって感染の状況が異なるために、都道府県の判断に委ねるというものであった。ある意味、全数把握をしなくてもいいと明示したわけであるが、その意思決定の責任が国から都道府県の知事に移ってしまった。その結果、全数把握の見直しを要望していた各都道府県のうち、実際に見直すところはたったの4県(宮城、茨城、鳥取、佐賀)にとどまった。
全国一律での基準にすべきではないか、全例把握をして発生状況を管理すべきではないか、とこれまでとは真逆の意見すら述べる知事も出てきた。

他県と横並びでないと、どのようなことが起こるのであろうか。医療機関や保健所の労力が削減され、感謝の声は届くであろう。しかし、もし集まっている情報が少なくなり、その結果、感染が拡大するようなことがあれば、知事の意思決定が非難されるであろう。
コロナの株も日々変化しており、将来どうなるのかわかる人は誰もいない。多くの都道府県と同様に現状維持を選択していれば、非難されることは避けられる。
その後、岸田首相もひとまず選択制にしているが、ゆくゆくは全国一律で見直しをすると表明した。おそらく、各知事の思いとしては早く全国一律で意思決定してもらい、その方針のもと動きたいというのが本音なのであろう。

未知な未来であるからこそ難し意思決定が求められ、その責任もついて回る。まさに企業経営や、未解決問題の研究と同じであり、その意思決定が正解であるか否かは時間が経過して振り返ってみないとわからない。
こうした環境で求められるのがリーダーシップである。未来はどうなるかわからないので、最新の知見を踏まえたうえで意思決定を下し、状況を良くなる方向へ導き、その結果うまくいかなかった場合に貴任を取るのがリーダーシップである。

今回の岸田首相の意思決定のあり方は、自治体により状況が違うので権限を委譲すると言えば聞こえは良いが、その結果状況が悪くなり各知事が厳しい立場に立たされた時に責任を取れるのであろうか。
おそらく知事だけが矢面に立つのであろう。これは権限委譲ではなくリーダーシップの放棄に近い。委譲された各知事の対応も興味深い。自ずから要望を挙げておきながら、横並びの意思決定ができないとわかると、現状維持よりも、将来のリスクが高まる意思決定をした知事がわずかしかいなかった。上から言われればやる、周りと一緒ならやる、しかし、自分だけ他と異なる意思決定をするのは嫌だ。これで自ら考え、判断し、導き、結果が悪ければ責任をとるというリーダーシップがあると言えるのであろうか。こうしたリーダー不在が今の日本の置かれている状況なのかと思わざるを得ない。(『月刊医療経営士』2022年10月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

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