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経済環境の変化にタイムリーに
対応できる制度づくりが急務

新しい経済環境に合致した
診療報酬体系の早急な見直しが求められる

30年も変わらない食事代

一般企業で原材料費が高くなった場合どうするかと言うと、その分、売価を値上げすることができる。昨今、さまざまなモノの価格上昇が続いている。たとえば、食品については、2022年1月~6月までで主要食品メーカーの値上げ品目は6000を超えたという。キューピーは食用油の価格高騰に対応し、マヨネーズやマスタードを21年以降に3回も値上げをしている。そうした食品値上げを受けて、外食企業も値上げをしており、マクドナルドは3月にハンバーガーを110円から130円に値上げした。増加率にすると20%である。吉野家も昨年10月に牛丼の並が387円から426円(10%増)へと上がっている。この数年で牛肉の価格が前年度比で50%増加しており、「ミートショック」と言われるほどとなっている。ここまで原材料が高騰すると、値上げして価格に転嫁をしないと企業努力では吸収しきれない。

では、病院の食事はどうかと言うと、なんと約30年も前から変わってない。1994年に1日当たり1900円と設定され、97年に消費税分(3%→5%)が上がって1920円になり、現在は1日当たりから1食当たりに変更され640円となっているが3食の合計額は変わっていない(図表1参照)。こうした状況を受け、四病院団体協議会では適正な額への見直しや1食当たりではなく1日当たりの支払いに戻すことを6月27日に厚生労働省に要望した。周知のとおり、医療機関は勝手に値上げをすることは許されていない。そのため、原材料の急激な上昇があっても、一般企業のように売値に反映することは難しい。

高騰する光熱費と建築コスト

同様のことがエネルギー価格でも起こっている。ロシアのウクライナ侵攻などで石油や天然ガスの価格が高騰し、国内の電気料金も上昇している。東京電力の電気料金は平均的な家庭の使用量で9118円(8月)と、昨年の6960円に比べ約3割も上がるという。医療機関のランニングコストで、薬剤や診療材料に次いで大きいのが電力であろう。電気料金の値上がりにより、規模の大きな病院では年間数千万のコスト増になっている。これも勝手に医療費に転嫁することはできない。ホテル業界ではニューオータニや東横インなどが、エネルギー価格の上昇を理由に値上げを発表している。病院も個室料は比較的柔軟に上げることができるが、有料個室の割合が最大50%と限定されており、個室を利用している人にだけコストの上昇を負担させるのも不平等であろう。
光熱費上昇についても四病協から6月に要望書が出ている。また、6月14日には食材費や光熱費の高勝への支援策を、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用して実施することについて、厚生労働省から各自治体に事務連絡が出ている。

もう一つ、値上がりが顕著なのが建築費である。病院事業はハード産業であり、何十年も古い建物を使い続けることができないため、常に建て替えを想定した事業計画が求められる。福祉医療機構(WAM)の調査によると、2011年には平米単価が20.8万円だったのが、20年には37万円と7割も上がっている(図表2参照)。たとえば、延べ床面横が1万8000㎡の300床の病院だとすると、全体の建築コストは37.4億円から66.6億円へと約30億円も上がることになる。その分、診療報酬を上げることで吸収できるかというと、それはできない。
さらに、医療機関には新型感染症を考慮したつくりや、ハザードマップに合わせた耐震構造や防水害構造、環境負荷のかからない構造などが求められる。安上建築手法は採用できず、面積や平米単価が上がる要因である。WAMの調査のあった20年以降もロシアのウクライナ侵攻などにより、さらに状況は悪化している。建築の見積りも3カ月や6カ月といった保証はされず、すぐに発注するならこの金額だが、数カ月後には変わっている可能性が高いといった交渉がされるという。

診療報酬に反映できるのか

こうした物価上昇に追い打ちをかけているのが円安である。円が外国通貨に対して安くなることは、相対的に円の価値が下がることを意味し、同じ100円で外国から買えるモノが少なくなる。同じモノを買おうとすると、これまで100円ですんでいたのが、130円払わないと買えなくなるということだ。日本はいろいろなモノを輸入に頼っており、輸入するための円換算のコストが、コロナ禍やウクライナ侵攻によって起こっている物価上昇にさらに拍車をかけている。

診療報酬が1958年に全国一律の料金体系になってから、高度経済成長期には一貫して引き上げが行われてきた。67年には薬価を実勢価格に合わせるために引き下げられ、診療報酬本体は2002年に当時の賃金や物価動向を踏まえ初めて引き下げられた。周知のとおり、それ以降は診療報酬のマイナス改定が定番となっている。
1990年頃から、日本がデフレになったり物価上昇が停滞する環境となり30年も経った。つまり、久しぶりに到来する物価上昇に制度や社会が対応しきれていない。過去には公的価格でもインフレに対応することはできていた。経済環境の変化にタイムリーに対応していかないとさまざまな歪みが起きかねない。

何でもかんでもコロナの支援金で対応するのには限界があるだろう。新しい経済環境に合わせた報酬体系の早急な見直しが必要であろう。(『月刊医療経営士』2022年8月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

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