MMS Woman Lab
Vol.97
慣例的に実施している作業を見直し
組織全体の業務効率化、最適化を実現

<今月のお悩み>医事課で主任を務めています。働き方改革推進に向けて看護部の業務改善チームが組織され、私もそのメンバーに選ばれました。看護業務のなかで事務職にシフトできるものを洗い出し、医事課に引き継ぐことになったのですが、結果として医事課の仕事が増えただけで、これで良いのか疑問に感じています。業務改善のためのタスクシフトの進め方を教えてください。

働き手が減少していく時代
働き方改革の本質を考えてみよう

2040年を見据える日本の社会保障制度の最大の課題は、なんといっても働き手の減少です。今後20年くらいの間は看取り数が増えていくという予測がありますから、医療・介護の現場はますます忙しくなるでしょう。骨太方針2022には「長生きが幸せと思える社会」という言葉が出てきましたが、人生の最終段階にかかわり、「生きてきてよかった」「幸せだった」と感じる過ごし方のお手伝いができたら、私たち医療・介護に携わる者も幸せを感じますね。
とはいえ、今より働き手が少なくなることが予測されていますから、医療・介護の現場では、より少ない人数で、より多くの働きをすることが求められるようになっていきます。そのためには、働き手を増やすことと同時に、業務効率を上げ、生産性を向上させていかなくてはなりません。それが「働き方改革」の本題です。

「働き方改革=残業時間削減」と思われがちですが、それはあくまで一つの手段にすぎません。残業時間を削減するためのタスクシフトと捉えてしまうと、単にタスクシフトを受けた人の業務が増えて残業する人が変わるだけで、根本的な解決にはなりません。タスクシェア、タスクシフトを行う前に、まずは業務整理が必要なのです。

業務の洗い出しと整理の段階から
共同作業を行うことが重要

今回は、医事課の主任を務めている相談者さんが看護部の業務改善チームのメンバーになったとのこと。病院として業務改善に取り組んでいるのはとても素敵なことですね。ところが、チームのなかで看護業務のうち事務職にシフトできる業務の洗い出しを行った後は、その引き継ぎを受けるだけで、結果として医事課の仕事が増えてしまったということですから、病院全体としての「業務改善」にはなっていないと言えます。

業務改善の進め方の基本は、①タスク整理、②重複業務の集約、③プロセスの見直し、④効率化――の4工程です。まずは看護業務のうち、看護師の専門性を活かして行う業務と、他職種にシフトできる業務に分類していきます。この段階で「とりあえずこの集計は事務で」と五月雨式に引き継ぐのではなく、実績の集計業務であれば、看護部としてどんな集計をこれまで行っていて、誰がどのように更新していたか、集計結果がどのように活用されていたかをしっかり確認することが必要です。
業務の洗い出しにより、これまで見えていなかった「裏の作業」が見えてくると、実は同じような項目をあちこちで違う形で集計していたり、他部署でもデータを収集していたりすることに気づく時があります。重複業務が見つかったらそれを集約して、関係する部署が必要としている項目を網羅した集計を1カ所で行えば良いことになります。この重複業務の集約が業務改善の第一歩です。
この過程で「用途が違う」「今までと同じ表の形が良い」といった反対意見が出るとは思いますが、今まで慣例的に行ってきた作業を一度見直す機会も大切なのです。事務職として看護業務改善のチームに加われたのですから、少し踏み込んで「改善」を進めてみても良いのではないでしょうか。

慣例的に実施している作業は、自分たちではなかなか見直せないもの。おそらく、看護師が行っている事務的な作業の多くは、他部署で協力できるものです。そして、統計業務はもちろん、患者さんへの説明の文書や記録(看護記録以外のものですが)なども、院内共通にできる業務がたくさんあります。いったんすべてを引き継いで、その後に徐々に業務内容を整理して改善を進める方法もありますが、現場の看護師たちと相談しながら整理をしていくと、お互いに業務への理解が深まりますし、次のステップである業務プロセスの見直しに進みやすくなります。

プロセスの見直しは、「やらなくて良いことはやめる」くらいの気持ちで取り組む必要があります。新たな重複業務を生まないためにも、妥協せずに最適化を進めていきましょう。
IT活用や一人ひとりのスキルアップも大切ですが、せっかくの業務改善の機会ですから、医事課や他部署の業務も見わたして、病院全体での効率化を進められると良いですね。

〈石井先生の回答〉

単純にタスクをシフトするだけでは残業する人が変わるだけで、改善にはつながっていきません。タスクシフトを行う前にまずは業務整理を行い、今まで慣例的に行ってきた作業を一度見直してみましょう。病院全体での効率化を進め、妥協せずに業務の最適化を実現してください。(『月刊医療経営士』2022年8月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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