MMS Woman Lab
Vol.95
同じことの繰り返しは衰退を招く
現状維持には努力が必要!

<今月のお悩み>4月に入職した職員に向けて院内研修を行っています。内容は研修委員会で決めており、初めて委員会メンバーに選ばれました。委員会で改めて研修のプログラムを見てみると、私が入職した頃と同じ内容で、20年前からほぼ変わっていないようです。委員会では「これまでも問題はなかったから変えなくて良し」という意見が多数。そういうものなのかと思いながらもモヤモヤしています。

新人研修は毎年の恒例行事 でも昨年と同じでいいの?

新年度が始まり、第1四半期を過ぎました。診療報酬改定の対応も一通り終わったところでしょうか。そろそろ4月に入職した職員のフォローアップ研修や、階層別研修などが始まる頃ですね。
最近は病院でも、企業のように人事部門の体制が整い、そこで人材育成関連の業務を担っているところが増えてきましたが、まだまだ「委員会」が主体になっている病院も多いようですね。4月に入職した職員に対して一斉に行うオリエンテーションは病院の理念や歴史の話から始まり、病院で仕事をするうえで最低限必要な医療安全や情報セキュリティに関する知識、就業規則などのルールの説明を行います。アイスブレークとして他己紹介や合意形成ゲームなどを用いたりもしますが、「仕事を始めるうえで必要なこと」を一斉に学ぶ場という位置づけですから、毎年内容が大きく変わることはありません。

病院内で行われる研修には、病院理念の理解を深め組織コミットメントを強める研修、職種ごとの技術向上のための研修、管理者を育成するマネジメント研修などのカテゴリーがあり、それぞれ、入職からの経過年数や年齢などで受講のタイミングが決まります。学ぶべき事柄の基本は大きく変わらないかもしれませんが、社会環境や価値観の変化(たとえば、多様性の受容、DXなど)に対応していかなくてはなりません。
しかし、ご相談者の病院のように、毎年メンバーが変わる「研修委員会」が中心になって研修を組み立てていると、前年度の記録やアンケート結果などを見て、特に問題事象がなければ、「昨年と同じ内容でいきましょう」となるこことは多いと思います。そして、20年以上も内容が見直されることなく、同じ資料で同じ研修を続けているということになりがちです。
大枠として問題がなかったとしても、改めて内容を確認すると、マナー研修の内容が古くなっていたり、アイスブレークとして昔ながらのゲームを行っていたりと、時代に合っていないものも含まれているかもしれません。

効果的な研修の実施に向けては内容のアップデートが不可欠

もちろん恒久的に使える知識、スキルはありますし、これまで積み重ねてきた伝統や風土など、変えてはいけないものもあります。しかし、「とりあえず今のままで」という言葉はとても危険だと意識しておく必要があります。
そもそも研修の成果は20年前と同じくらい出ているでしょうか。同じ内容の研修が同じ成果を出せると限りません。受講者が受けてきた教育の違いや社会の考え方の違いなどもあります。「今」の環境にあっているか、「今」の職員に必要な内容なのか、補足すべき項目があるのではないかをしっかりと吟味して、表現や言葉を変えたり、事例を入れ替えたり、グループワークショップの内容を変えたりしていくと良いでしょう。
たとえば、20年前には普及していなかったツールや技術があります。それらを業務のなかで使う場面が増えていますので、電子メールの作法やSNSからの情報漏洩リスクなどは研修でカバーしておきたいところです。
同じことを繰り返すのは現状維持と思えるかもしれませんが、研修の成果や効果が同じレベルに達するという意味での現状維持と考えると、それには努力が必要です。研修の成果をきちんと評価して、本当に自分たちが考えているように現状が維持できているのかを見極めることが大切です。

とはいえ、研修全体を見直すとなると、業務の合間の「委員会」の時間だけではなかなか大変だと思います。一度にすべての研修を見直すのではなく、「今年はリーダー研修」「来年はマネジメント研修」という具合に、少しずつ見直しを進めるのでも良いでしょう。
また、新しい考え方が加わるということは、必要なくなるものもあるということです。内容が膨れ上がってしまうのも困り物ですから、全体を整理して不要なものは削除しましょう。
「今のままで」は危険です。体型や趣味のスキルと同じで、少し油断すると衰退の一途をたどることになります。現状維持には努力が必要なのです。

〈石井先生の回答〉

研修は、20年前と同じ成果が出ているでしょうか。「このままで良いかな」と思ってしまうことは誰にでもありますが、そう思い始めたら実は衰退の一途を辿ることになる――ということを覚えておきましょう。現状維持はたゆまぬ努力の結果としてようやく得られるのです。(『月刊医療経営士』2022年7月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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