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地域連携でのアウトカム評価
診療報酬体系は大変革を迎えるか?
財政審の動向から医療制度の先を考え
どんな変革にも負けない強い経営基盤をつくれ
財政政策の医療制度への影響
財務省の諮問機関である財政制度等審議会から「歴史の転換点における財政運営」という提言がまとめられた。
この提言の目的は、日本が抱える経済・金融・財政の脆弱性を直視し、経済財政運営のあり方を示すとともに、各分野で求められる改革を具体的に示すことである。
教育や産業、防衛なども含まれるが、最もページ数を割いているのが社会保障だ。国の歳出の3割を超え、最大の支出項目を占めるので仕方ないことであろう。本提言は無視できず、今後の医療政策にも影響を与えると考えられる。
医療に関する内容も多方面に及んでいる。かかりつけ医やリフィル処方の推進、薬価の適正な評価、保険者のあり方――など、財務省主導の審議会だが、さながら厚生労働省から発行されているような取り扱い範囲の広さとなっている。
進まない医療費適正化
本提言では、医療給付費の適正化として実施してきた施策は十分に成果が出ていないと指摘されている。具体策の一つが「平均在院日数の短縮」だ。
当時の厚労省は、2015年度には1.3兆円、25年度には3.8兆円の適正化が可能と試算していたが、入院医療費の対GDP比は拡大している(図表参照)。1980年代には約40日だった一般病床の平均在院日数は、約16日まで短縮された。医療現場でも政策誘導に対応するために、迅速な退院を進めてきた。しかし、現在でも先進諸国に比べて長く、相対的に総病床数や病床利用率は減少していないため、医療費適正化効果は限定的だという。
そもそも早期退院は、患者さんのためではなく、医療費適正化を目指した政策誘導に応じるためである。その結果、目的が十分に達成できていないと言われると残念でならない。
もう一つの施策が生活習慣病対策だ。当時の試算では、15年度には0.7兆円、25年度には2.2兆円の適正化が可能とされていた。その後、厚労省の各種会議で検証したところ、効果額は医療費ベースでわずか200億円(1人当たり6000円)とされた。さらに、特定健診・保健指導には毎年公費ベースで370億円もの予算が投じられている。都道府県の医療費適正化計画において、「医療の効率的な提供の推進」よりも「住民の健康の保持の推進」が重視されているため、住民の予防・健康づくりを行うことで医療費適正化が期待できるとしている。
しかし、予防や健康づくりによる医療費適正化のエビデンスは乏しいと指摘されている。医療費適正化が目的の計画で、住民の健康保持の施策が打ち出されるのはおかしいとのことだろう。
これも医療や保健の現場からすると、違和感がある。そもそも医療や保健サービスの目的は住民のQOLの向上であるべきで、医療費が下がらないなら意味がないとの理論そのものが医療者には受け入れがたい。医療費適正化のために医療があるわけではなく、住民に必要な医療があり、それをどのような制度で適正に提供していくかを考えるべきではないか。
図表 医療給付費の伸び
出典:財政制度等審議会「歴史の転換点における財政運営」(2022年5月25日)
横連携型の診療報酬体系とは
財政審はこれまでの施策が不十分という前提で、さまざまな施策を提案している。
その一つが診療報酬体系の変更だ。これまでの診療報酬体系は、医療機関単位・医療行為単位・入院日数単位の評価が中心だ。そのため、医療行為の回数や病床稼働率、在院日数に医療機関の経営上の関心が向きがちとなる。
この「縦突進」型の評価を、「アウトカム重視」「質重視」の患者本位かつ医療機関等相互の面的・ネットワーク的な連携・協働をより重視する「横連携」型の体系へシフトすべきという。
患者さんが適した治療・療養を受けるための転院、疾病の治癒による退院あるいは疾病と共存しながらでも住み慣れた地域や自宅での生活に戻る退院というエピソードを一つの成果として評価していく。患者単位でエピソードを評価し、患者の転帰にかかわった地域の複数の医療機関等に対し、一体として包括報酬を支払うことも検討に値するとされる。
DPCのように、日当たりの包括報酬ではなく、DRGのような1入院当たりの包括報酬を超え、急性期退院後の回復期~慢性期まですべて包括化するといった概念だろう。地域連携パスで急性期~慢性期までの評価を包括で支払うといった感じだろうか。それを地域や症例ごとに、どのように運営し、報酬を分配していくかは、それぞれの地域のリソースや症例の状況によって変化する。
医療機関が少なく、一つの医療機関で急性期から回復期、慢性期までカバーするようなケースや、複数の機能の医療機関が連携し、退院や在宅までカバーする地域もあるだろう。
地域医療連携推進法人にも言及されており、医療機関の集約化が求められる。とはいえ、エピソードごとに得られる収益を傘下法人でどのように分配していくか、現実的に考えると運用がとても難しい制度になりそうだ。次回の診療報酬改定で早々に議論されることはないと思うが、具体的な検討が始まっていくのか注視したい。(『月刊医療経営士』2022年7月号)
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)