MMS Woman Lab
Vol.95
新たな時代の働き方に合わせた
採用やキャリア支援を考える
<今月のお悩み>総務課で人事を担当しています。先日、中途採用の応募者のなかに大学卒業後10回以上転職し、1ヵ所の在籍は長くても2~3年程度という方がいました。これまで転職回数が多い人は書類審査でお断りすることが多かったのですが、その方は直近2社では役職にも就いており、評価もされているようです。入職してもすぐに辞めてしまうのではないかと心配な半面、気になっています。どう判断すべきでしょうか。
転職の多さはマイナスではない?現代の採用でみるべきポイント
人生100年時代、ライフステージに合わせて暮らし方を変えていくのが当たり前になりつつあります。ワーク・ライフ・バランスも、従来の「時間の切り分け」という視点だけではなく、自分自身のスキルアップや生きがい、楽しみ方の一つとして仕事をする時間を捉えるようになってきます。これからはさまざまな仕事を経験して、視野を広めたいという方も増えてくることでしょう。
病院の総務課で採用窓口を担当していると、求職者の履歴書を見る機会も多いと思いますが、今回の応募者のこれまでの職歴に驚いたということですね。大学を卒業してから10回以上の転職、しかも1カ所に2~3年在籍、直近の2つの会社では役職も任されている方が、医事課の求人に応募してきたとのこと。驚いてしまうのもよくわかります。
これまでは、転職の回数が多い方は退職リスクが高いとか、職場になじめないのではないか、との懸念から書類審査でお断りするケースが多かったのですね。今回も「すぐ辞めるのかな?」とは思うものの、なんとなく気になるとのこと。そんな時こそ、採用面談をしっかり行うことが大切です。
まず、転職の「多さ」ですが、確かに終身雇用が一般的だった時代には、「転職」は特別なことだったかもしれません。しかし今は、ライフスタイルやスキルアップの観点から職場を選びながら仕事をする方が増えています。「自分自身の中長期計画」をしっかり立てて、たとえば50歳で起業をしようと考え、30歳から49歳までの20年間で計画的に仕事を変えている人もいるでしょう。今回の応募者がどのような理由でこれまで転職をしてきたか、また、今回どのような「期待」を持って病院に応募してくださったのかをしっかりとうかがうのが良いと思います。
もしかしたら「2、3年医療介護の世界を学びたい」と思っているのかもしれません。その場合は、病院としてその方に何を「期待」するかをしっかり考えたうえで、採用するかどうかを判断すると良いのではないでしょうか。
さまざまな業界を見てきた方であれば、新鮮な目で院内の業務を見て、改善の種や効率化の可能性を見つけたり、ほかの業種にはない病院での仕事の良さや魅力も感じてくれるかもしれません。仮に短期間であったとしても、精力的に知識の習得に取り組んでくださるでしょうし、病院という職場でそれまでの経験を活かして業務改善提案なども積極的にかかわってもらえるでしょう。
さまざまな価値観の人間が集まり多様性のある職場が生まれる
参考までに、退職理由の整理の仕方を少し説明しておきます。退職理由は外的要因と内的要因の2つに分類することができます。外的要因としては、家族の転勤や勤務していた会社の倒産などがあり、これは自分ではコントロールできないものです。ある意味、仕方がない転職ですから、気にしなくても大丈夫ですね。
一方、内的要因は自分の意思で退職を決めるもので、職場環境、人間関係などに違和感を持ったり、あるいはスキルアップを目指したり、自分の環境を変えたいと思った場合などがこれにあたります。このケースでは、前向きに意志を持って転職を決めたのか、今後どうしたいと考えているのか、思いをしっかり聞いておくことが大切です。他者依存で職場を転々としているようであれば、受け入れ後は、少し丁寧なフォローが必要になるかもしれません。
リンダ・グラットン氏の著書『ライフ・シフト』を読まれた方も多いでしょう。そのなかで「人生100年時代の3つの生き方」として、エクスプローラー(Explorer)、インディペンデント・プロダクター(Independent producer)、ポートフォリオ・ワーカー(Portfolio worker)が紹介されていますこのうちポートフォリオ・ワーカーは、複数の仕事を持ちながら時代の変化に合わせ、自分も変化させながら、自分にしか出せない価値を見い出しながら生きていきます。基幹業務を支えるワーカーはもちろん大切ですが、さまざまな考え方の職員がいることで、病院の仕事も楽しく、より良くなっていく時代になりますね。
〈石井先生の回答〉
人生100年時代には、ライフスタイルやスキルアップの希望に合わせて仕事や職場を選ぶ人が増えていきます。そうした状況を理解したうえで、さまざまな価値観・考え方の職員が集まる職場づくりに向け、採用を行っていくことが人事担当者の腕の見せ所ではないでしょうか。(『月刊医療経営士』2022年6月号)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか