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2050年に求められる能力を発表
100年時代に向けて新たな「学び」が必要だ

テクノロジーの進化に伴って求められる能力は変わる
20年後でも活躍するために今から必要な能力開発をせよ

働き手の減少と環境変化

2030年や50年という未来の人材を取り巻く採用・雇用、教育にかかわる環境はどうなるのか――。
経済産業省は、産官学が目指すべき絵姿を示すことを目的として、20年末から有識者を集めた未来人材会議を設置し、協議してきた。
この背景にあるのは、デジタル化の加速度的な進展と脱炭素の世界的な潮流だ。これらはこれまでの産業構造を抜本的に変革するだけではなく、労働需要のあり方にも根源的な変化をもたらす可能性がある。4月の同会議でまとめられた、未来人材ビジョンの内容をみていく。

まず大きな前提となる課題が、日本の生産年齢人口が50年には20年に対して3分の2に減少してしまうことである。少子化によって人口は04年から減少し、毎年、小規模な県の人口と同じくらい減っている。働き手が減るのは確実に起こり得る未来である。
さまざまな少子化対策を講じているが、21年の合計特殊出生率は1.34と、人口を維持するために必要な合計特殊出生率である2.07には程遠いのが実情だ。

即効薬である外国人人材の活用においては、21年の172万人から、30年には356万人、40年には632万人と倍々ゲームのように増えていくことが予測されている。しかし、需要に対する供給量は十分ではなく、外国人人材も不足すると指摘されている。デジタル化の加速度的な進展については、統一的な見解はないものの、AIやロボットによる雇用の自動化可能性が職種ごとに示されている(図表1参照)。
看護師や介護職は自動化可能確率がゼロに近い一方、事務職は100%に近い確率が予想されている。また、脱酸素化はガス、石炭、石油といった産業の雇用を30年までに30%近く喪失させ、太陽光や再生エネルギーの産業は大きく増えると予想されている。こうした環境変化を乗り越えるためには、人材の技術の再習得であるリスキルが不可欠になる。

図表1 職種ごとの自動化可能確率と雇用者数の分布

出典:経済産業省「未来人財ビジョン」

未来人材への具体的施策

同ビジョンで、最終的に提起されている結語は次の2つである。

①旧来の日本型雇用システムからの転換
③好きなことに夢中になれる教育への転換

①については、人を大切にする企業経営と、労働移動が円滑に行われる社会が掲げられている。
具体策としては、学生のインターンシップの推進、ジョブ型雇用の導入、兼業・副業の推進、学び直しとキャリアアップなどが示されている。
②については、社会人の学校教育への参加、対面とデジタルとの組み合わせ、知識獲得のための教材の解法、教員の知識探究への集中などが示されている。

医療機関には直接関係ないように思えるかもしれないが、今後輩出される人材は、こうした取り組みが推進される環境で育ってくる可能性が高く、無関心ではいられない。ここに挙げられているキーワードに関する取り組みを医療機関においても検討していきたい。

医療分野に関する点で言うと、50年に必要となる労働者数は20年比で32%増と産業別でみると最も増加率が高くなる。
先述のとおり、看護や介護においては自動化可能確率も低い。従業員の大多数を占める看護や介護の労働者外国人の労力が必須になるも、日本全体で外国人にとって魅力的にならないと人手不足は続きそうだ。
一方で、診療科の一部や、事務職の業務については他産業と同様にデジタル化の影響を多分に受けることが考えられる。医療機関には、こうした環境変化を想定した準備が求められる。

求められる能力の変化

同ビジョンで示されている各種調査結果のなかで、医療経営士としての人材育成に参考になりそうなものを取り上げる。
仕事に求められる56の能力等について、15年で求められるものと、需要の将来予測をもとに50年に求められるものとの変化が示されている(図表2参照)。
15年時点で求められるトップ3の能力は、①注意深さ・ミスがないこと、②責任感・まじめさ、③信頼感・誠実さ――である。まさに、どんな人材を採用したいか、といった調査をしたら挙がるだろう性質が並んでいる。
一方、50年では、①問題発見力、②的確な予測、③革新性――となっている。しかも、50年では56の全能力の需要の平均を1とした場合の係数は、1位の問題発見力が1.52と、15年の1位である注意深さ・ミスがないことの1.14に比べても圧倒的な需要があることがわかる。
また、15年のトップ10の能力のうち、50年のトップ10にも残っているのは柔軟性だけであり、その他の能力はランク外となっている。

15年に求められる、ミスがないこと、まじめにやること、誠実であることが、未来には求められなくなるわけではない。しかし、デジタル化等が進み、人間にそうした能力がなくてもミスにつながらなかったり、不正を働こうとしてもエラーがかかったりするような環境になっているのであろう。

来年、再来年にこうした未来がくるわけではないが、徐々に変化する環境に合わせてリスキルすることが個人として求められる。(『月刊医療経営士』2022年6月号)

図表2 求められる能力の変化

出典:経済産業省「未来人財ビジョン」

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

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