MMS Woman Lab
Vol.94
ジョブローテーションによって
新たな視点から経営に貢献

<今月のお悩み>新卒で入職し、15年間医事課で仕事を続けてきました。今は主任を務めています。医事課長はこの道40年のプロフェショナルで他部署からの信頼も厚く、自分の将来を重ね合わせることもありました。そんな矢先、新年度から中堅事務職のジョブローテーション制度が導入されることになり、私もこの対象として経理課に異動になりました。これまで専門性を深めてきた業務に対する思い入れもあり、どう気持ちを切り替えたら良いか悩んでいます。

事務職の専門性について病院はどう考えている?

新年度になると、新しい仲間を迎えたり、配置換えがあったり、役割が変わる人がいたりしますし、職場がどことなく明るい雰囲気になります。学生時代の新学期のワクワク感に似たものを感じますね。
病院経営としては、特に今年度は診療報酬改定にマイナンバーカード対応など、新しい取り組みもあり、現場は慌ただしくなっていることでしょう。ご相談の病院では、新たな取り組みとして事務職のジョブローテーション制度を始めたとのこと、とても素敵な取り組みだと思います。
病院はさまざまな専門職が自分たちの専門性を活かしてそれぞれの役割を果たしながら、チームで協力して医療を提供しています。もちろん事務職もそのチームの一員です。職員が安心して働ける環境を整えたり、患者さんが不自由なく病院で過ごすことができるような仕組みをつくったり、行った医療行為をしっかり請求して病院の経営を支えたりする役割を担っています。総務課や人事課はもちろん、経理や財務、環境整備に用度管理などの役割も医療を提供す病院を支える、なくてはならな部門です。

ご相談の方は新卒で病院に入職し、医事課に配属されて15年間、今は主任として役割を果たしながらスタッフの育成などにも力を入れているということですから、すでに立派な医事業務のスペシャリストですね。診療報酬の算定は病院経営の収入部分を支える大事な役割です。仕事を行ううえで、医師や看護師との連携が欠かせませんし、患者さんと直接かかわることも多いので、病院事務職のなかでは花形です。やりがいを持って仕事をしてきたことでしょう。医事課一筋の課長の姿を見てご自身の将来を想像することもあったのですね。
そんな時に病院として初のジョブローテーションメンバーに抜擢され、医事課から経理課に配属になったとのこと。少し寂しさを感じているようですが、まず、このジョブローテーションの意味をよく考えてみましょう。

長期的な視点で考えるとわかるジョブローテーションの効果

ジョブローテーションとは人材育成の一つの手段で、戦略的に部署異動や担当業務の変更を行って組織内のさまざまな業務への理解を深めていく仕組みです。企業などでは短期間に複数部署を経験させて、適材適所の見極めを行ったりしています。スペシャリストの育成で後れをとるというデメリットもありますが、数年のことですし、視野が広がり全体の動きが理解できる人材の育成につながるというメリットのほうが大きいと考えられています。
今回のご相談の病院では、中堅職員が対象ということですので、新入職員の適正を見るジョブローテーションとは異なり、病院の経営マネジメントに携わる幹部職員の育成戦略の一環だと考えられます。ご相談者の場合、病院の収入を確保する最前線の医事課業務をマスターしたうえで、支出部門の業務に携わるわけですから、病院経営のお金の動きをすべて把握することになります。今後期待される業務としては、日々の支払いから月次の収年間予算の立て方や中長期戦略の立案などを行っていくことになるでしょう。もしかしたら、数年経理を担当した後、人事や総務といった管理系の仕事も体験することになるかもしれません。
慣れ親しんだ仕事を行い、理解を深め、業務効率を上げていくのもすばらしいことですが、病院経営チーム内の他の部門の仕事を詳しく知ることで、もっと大きな視点で生産性を上げていくことができるのではないでしょうか。「部署」というブロック単位で連携をしていると、お互いの細かなところまでは見えないこともあり、実は同じような業務が散在していたり、個人依存になっている業務があったりします。新入職員は「そういうもの」と思ってしまうことも、ベテラン職員の目で見れば「おかしい」と気づくことができるでしょう。

ジョブローテーションの対象者には、そのような視点で業務を見直してもらうことも、病院側は期待をしているはずです。これまでの経験を活かして、これまで以上に病院経常に貢献していただきたいと思います。

〈石井先生の回答〉

人生100年時代。何歳になっても働ける環境整備が進み、働く期間もこれまでより長くなります。40歳手前で10年かけて病院内のすべての事務系業務を経験しても、そこからまだ30年以上働けます。ジョブローテーションは病院経営のスペシャリストになる一歩と捉えて、ぜひ楽しんでください。(『月刊医療経営士』2022年5月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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