News monthly
公立病院のネットワーク化に
民間病院はどう挑むべきか

自院のポジション確保に向けて新公立病院改革ガイドラインと
地域の公立病院の動向から未来の地域医療事情を読み解け

新ガイドラインに盛り込まれた感染症対策と働き方改革

これまで公立病院の経営改革が進められてきた。2007年に初めて「公立病院経営改革ガイドライン」が示され、15年からは「新公立病院経営改革ガイドライン」に沿って、経営改革プランの策定と実行が行われてきた。これらのプランは基本的に20年度までであったこともあり、今回新たに「公立病院経営強化ガイドライン」が総務省から発表された。

同ガイドラインでは、22~23年度中に経営強化プランを策定し、27年までを標準的な期間とした。公立病院向けの指針ではあるが、昨今の医療経営環境を踏まえた内容になっており、公的・民間病院も参考になる。

まず公立病院のあり方の大前提として、地域におけるその役割・機能を見直し「機能強化・連携強化」を進めていくこととされている。この点はこれまでのガイドラインと大差がない。
ただ、前回からの時勢の変化を踏まえ、①新型コロナウイルス感染症対策、②医師や看護師等の働き方改革――については大きく盛り込まれている。①については、コロナ禍において公立病院が果たした役割は大きく、平時からの人材確保が有事の備えとなるとされている。
また、②については、医師の時間外労働規制が始まることから、ICTの活用やタスクシフト・シェアの推進も踏まえ、一層の改善が求められている。
一見すると、当たり前なことが述べられており、大した示唆もない内容に思えるが、今回のガイドラインでは、こうした課題の解決に向けて目指すべき方向性が明確に示されている。

医師は基幹病院に集約し教育を通じて派遣する

その打出の小槌のような施策というのが、基幹病院に医師育成の基盤をつくり、そこからへき地の中小病院や診療所へ医師を派遣するというモデルである。
比較的人口密集地にある基幹となる公立病院においては、高度・先進医療を担い、症例数を集め、指導医や医療設備も充実させやすい。結果として、教育体制の充実につながり、医師や看護師が確保できる。そこに集めた人材を、へき地や中山間地、離島といった人口が少なく、規模の拡大が難しい公立病院や診療所に派遣する。小さなところが単独で人材を確保するのではなく、連携により広域で人的資源を配置することが示されている。
さらに具体的に、医師については、臨床研修プログラムを充実させ、学会の参加や大学医局への訪問機会の確保、合同カンファレンスへの参加、若手医師のスキルアップの環境整備といった取り組みが推奨されている。
こうした医師教育の魅力化により、臨床研修医や専攻医、地域枠の若手医師を確保するという。ガイドラインでは参考資料として図表1の地域の事例が示されている。図表2についてはその一つで、岩手県における基幹病院から過疎地の中小病院に医師を派遣している事例である。

さて、こうして基幹病院での人材確保と連携病院への派遣が機能するようになると、新興感染症が拡大した時でも医療機能を維持することができ、働き方改革にも対応ができるというシナリオである。前回までのガイドラインでは再編・ネットワーク化、経営形態の見直し、民間手法の導入といったことが強く打ち出されており、今回はこれらの内容も盛り込まれつつも、全体を通しては先述の若手医師確保と派遣の体制構築が推奨されている。

04年に現行の新医師臨床研修制度が始まり、大学医局の力が相対的に落ち、医師の確保や派遣機能が弱体化していった。その結果、それまで医局派遣に依存していた医師確保ルートが途絶えた公立病院では人材確保に苦戦していく。各地で経営改革が進められて見えてきた解決策は、連携グループ内の中核機能を持つ病院に医師の育成機能を持たせ、そこから人材を派遣するモデルである。

図表2 岩手県立病院の事例

出典:「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドラインについて」(令和4年4月20日総務省)

対公立として民間にもネットワーク化が求められる

これらの改革が各地で進められるとすると、単独型の公立病院では対応できないため、どこかのネットワークに入ることを模索することになる。基幹となる公立病院や大学病院、もしくは県の地域医療支援センターなどと連携し、継続的に医師を派遣される仕組みの傘下に入る。基幹病院は派遣先の医療機関のことも想定して魅力ある医師研修プログラムをつくり、最新の医療技術が学べる場を維持することが求められる。
地域で、かなり強固な病院とそのネットワークができるので、公的・民間病院にとってみると戦術の再検討が必要になるだろう。公立のネットワークの一部に入る、別のネットワーク化を図る、独自に人材育成機能を持つ。ガイドラインを受けて、各地で公立病院がどのような手を打ってくるか注視したい。(『月刊医療経営士』2022年5月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング