MMS Woman Lab
Vol.93
一人ひとりが自分の役割を果たす
自立した個人の集まりが職場

<今月のお悩み>医事課に所属しています。レセプト作成ソフトの変更に伴い業務見直しが必要となったのですが、意見が対立してまとまらず、最終的に課長の判断で意見を集約しました。その後、自分の意見が通らなかった職員が退職することになり、「課長に裏切られた、もうこんな職場では働けない」と医事課職員に触れ回っています。あまり気持ちのいいものではないのですが、どう対処すべきですか。

「自分の意見が通らない」は退職の理由としてあり?

年度末はさまざまな区切りを迎えるため、退職者が多くなる時期です。定年を迎える方、自己の可能性を引き出すために他の職場に向かう方、家族の都合でやむなく退職する方もいるでしょう。職場を離れる理由はさまざまですが、それぞれに思いや気持ちを整理しながら退職に向けて準備を進めていることでしょう。
しかし、時には感情的になって退職を決める方もいます。傍から見ていると、「もっと落ち着いて判断したほうが良いのではないか」と思いますが、なかには気持ちのままに退職を決め、さらに自分の思いや感情を周囲にぶつけながらその勢いのまま職場を去っていく人もいます。今回のご相談はまさにそうしたケースのようですね。

仕事をするうえでは、考え方や進め方の違いによって意見がぶつかり合うことはよくあります。医事課職員にとって、診療報酬請求業務は病院の収入に直結する非常に重要な仕事ですから緊張感もありますし、締め切りに遅れないように、ピリピリしながら進めている時期もあります。レセプトチェックのタイミングや確認方法担当者同士が対立し結論が出なかったため、課長の判断で意見を集約したとのことですが、その時に「自分の意見が通らなかった」ことに気分を害した職員が退職することになった。そして、その職員があなたやほかの医事課職員に「課長に裏切られた、もうこんな職場では働けない」と触れ回り、その対応に困っているということですね。

「裏切られた」というフレーズは心に刺さる言葉ですし、聞かされる側としても気分が良いものではありません。時代劇などを見ていると、戦国時代の敵味方の関係で戦況を見て優位に立っている側に寝返る時に「裏切り御免!」というセリフを聞くこともありますが、そのような「決意表明」ではなく「私は課長に裏切られたので、もう職場にはいたくない」という退職宣言をされたら、一体何があったのかと気になってしまいますよね。

部下を守るのは上長の役割だが守るのは仕事の環境

退職する職員に何があったのかを聞く前に、「裏切られた」という言葉を、どういう意味で使っているのかを少し冷静になって考えてみましょう。
文章の基本は「誰が」「何を」「どうした」です。このケースでは、「誰が」「何を」「裏切った」のかを明確にしてみましょう。「課長が」「私を」「裏切った」という文書になりそうですが、「私を」の部分を「私の何を」と考えていきます。ここに入るのは「私の期待を」という言葉ではないでしょうか。「課長が」「私の期待を」「裏切った」という主張だと考えられますが、そもそも退職を決めた職員は、課長に何を期待していたのでしょうか。
職場は一人ひとりが自立した個人としてかかわり合う場です。それぞれの立場によって役割の違いがあります。課長には業務や職員の管理責任がありますし、医事課職員には病院の顔としての顧客対応の役割や診療報酬請求を正確に行う責任があるでしょう。常勤職員であっても、非常勤職員であっても、役割を果たすという責任があり、自立した個人として職場に存在しているのです。

相談のケースでは担当者間の意見の違いや感情のぶつかり合いがあり、退職する職員は「課長が自分を守ってくれなかった」と感じたということですが、何を守ってほしかったのでしょうか。確かに従業員を守るのは組織の役割、部下を守るのは上長の役割ですが、「守る」のはあくまで仕事をするための環境です。また、外部からの理不尽な圧力などの精神的負担がらの保護なども考えられます。しかし、職場の仲間との関係において、いつも自分の味方になってくれること、忖度を期待していてそれが得られなかったことを「裏切られた」と感じているとしたら、残念ながら自立した社会人とは言えません。

自立とは、自由気ままに行動することではありません。それぞれが職場での役割をきちんと果たすことです。今回は残念ですが、退職される方が次の職場で楽しく働けることを願いつつ、気持ち良く送り出してあげましょう。

〈石井先生の回答〉

従業員を守るのは組織の役割であり、部下を守るのは上長の役割ですが、「守る」のは仕事の環境です。職場は、職員一人ひとりが自立した個人としてかかわり合う場です。それぞれが役割をきちんと果たすことが自立であり、それを認識したうえで互いに尊重できる関係性を構築していきたいですね。(『月刊医療経営士』2022年4月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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