MMS Woman Lab
Vol.92
職場恋愛と職場のルール
個々の職員に接する視点が大切
<今月のお悩み>病院の総務課で課長をしています。課内で一緒に住んでいるカップルがいるのですが、どちらかが残業をしているともう1人も残って、一緒に帰っているようです、業務終了後は速やかに退勤するのがルールなので退勤を促すべきだと思うのですが、一緒に住んでいると知っていて注意したら、周りから「ひがんでいる」と思われないか心配です。職場恋愛についてどうこう言うつもりはないのですが、どう対応すべきか教えてください。
「時代」が変われば「カタチ」も変わる~職場恋愛今昔物語~
時代とともに変わってきたものの一つに「結婚観」があります。時代劇などを見ていると、家系存続のための結婚や、争いを避けるための戦略としての結婚など、個人の感情の問題ではなく、家同士契約の形として「結婚」という手段が使われており、今とは大きく違います。当時の人たちも感情としての好き嫌いはあったと思いますが、その気持ちと結婚という仕組みが直結していなかったのでしょう。
こうした流れは大きく変化しており、昭和の時代にはまだ、家柄や兄弟の都合などで両親が結婚相手を決めるという風習が残っていましたが、もう今ではあまり聞きません。これに伴って恋愛事情も大きく変わってきているようで、「アイドルは恋愛禁止」なんていうのも昭和の話、今は「好き」「一緒にいたい」という気持ちを当たり前に表現する時代ですし、職場で「おつき合い」も実にオープンです。
昭和の時代の職場では、職場恋愛(これも、懐かしい響きかもしれませんね……)はひたすら周囲に隠し、待ち合わせも職場から2駅くらい離れたところにわざわざ設定して、退社時間もあえてずらしたりしていました。しかも、おつき合いしているのが上長に知られると、即「結婚」圧力がかかり、女性側は結婚するか、退職するかを迫られるという、今では信じられないような状況でした。まして「うまくいかなくなって、おつき合いを解消」となると、どちらかが退職しなければならないほど、居づらい雰囲気になるものでした。
しかし今は、わざわざ退勤時間を変えたりしているのはあまり聞きません。仲良くなって、親密な関係になって、一緒に暮らし始めて、という一連の様子が職場の方々にも周知のことになっているケースもあります。一緒に暮らすようになったらきちんと転居届を出してきますし、一緒に暮らしていることを隠す様子もない方々も少なくないように思います。周囲からしてもプライベートなことですし、仕事に支障がなければ、取立てて話題にすることでもありませんね。
職場のルール順守に忖度は無用 公私のメリハリはきちんとつける
今回のご相談では、総務課のおつき合いをしている職員のうち、どちらかが残業しているともう1人が職場で帰りを待っているため、注意すべきかどうか困っているということですね。“つき合い残業”のような感じで特に急ぎではない仕事をしているのか、ただ何もせずに職場に残っているだけなのか事情がわかりませんが、本当に待っているだけなら残業にはなりませんから退勤するように促して良いのではないでしょうか。この点に関しては、2人がつき合っているとか、一緒に暮らしているとか、さらに言えば夫婦であったとしても、同じことが言えます。
そもそも残業は、その日のうちに終える必要がある仕事が終わっていない場合に上長の指示で時間外労働をするものですから、課長として「指示」または「申請を許可」した職員が残業をすることになるのです。一方、一緒に帰るために待っているのであれば、退勤して近くのカフェなどで待っていれば良いことで、そもそもそこまで細かな指示を出すようなことでもありませんよね。
一緒に暮らしていることを知っているのに、「先に帰るように」注意すると、ひがんでいるように思われるのではと気にしているようですが、仕事が終わったら退勤するのは職場のルールですから、それは毅然と指示しても良いのではないでしょうか。
ほかにも、仕事中に仲の良い2人がおしゃべりしていて手が進んでいないとか、職場での言葉遣いや振る舞いが目に余るといった状態がみられたら、しっかりと注意すべきです。その時は、「気にする人もいるから……」と他の人のせいにするのではなく、上長としてきちんと指導をしたほうが良いです。病院は職場結婚も多いので家庭の事情が職場に持ち込まれるケースも少なくありませんが、夫婦であっても仕事中はあくまでそれぞれが1人の職員ですから、個々にしっかり接するようにしていきましょう。
〈石井先生の回答〉
職場恋愛中の2人に注意をすることに対して、「口を出すのは野暮」と思う人もいるかもしれませんが、夫婦だろうが、恋人だろうが、職場では1人の職員であり、ルールを守っていなければ守るように促すのは当然です。個々の職員にきちんと接すれば、受け取る側もわかってくれるはずです。(『月刊医療経営士』2022年3月号)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか