MMS Woman Lab
Vol.90
注意の仕方に配慮をすれば
相手の受け取り方も変わる

<今月のお悩み>病院の総務課に所属しています。病棟の看護助手同士のトラブルが頻発し、悩んでいます。衝突のきっかけとなっているAさんはまじめですが、周囲を怒らせる言動が少なくありません。先日も看護助手のBさんと衝突し、結局Bさんは退職してしまいました。Aさんと話をしても「私は間違ったことは言っていない」と言うばかり。本人に悪気がないだけに、どう注意すれば気づいてもらえるのか、頭を痛めています。

間違いを指摘すること自体は間違ってはいないけれど……

総務課の業務範囲は病院によって違いがあると思いますが、「総」という文字が表すとおり、「すべて」の業務が舞い込んでくるところです。私が尊敬している総務部長は、「病院のなかで、どこにも属さないすべての業務を行うのが総務」と言っておられました。そのなかには、今回の相談のような職員間のトラブルの対応も入っていたのだと思います。

病棟に配置している看護助手さん同士の感情的な衝突が頻繁に起こり、すぐに退職者が出てしまっというのは困りものですね。いつもきっかけは看護助手のAさんで、とてもまじめな方ということですが、なぜ同じようなトラブルが起きてしまうのでしょうか。まず、今回のBさんのケースを整理してみましょう。

Bさんが担当していた患者さんは食事介助に注意が必要で、看護師さんからも口に入れる量やタイミングについて細かい指示があった。それにもかかわらずBさんは、指示と違う方法で介助をしていたとのこと。隣で他の患者さんの介助をしていたAさんはそれを見て、食事介助の後すぐにナースステーションにBさんを連れて行き、連絡ノートを見せながら、「あの患者さんの食事介助の注意はここに書いてあるでしょう?あなたのやり方は間違っていたから、次回から気をつけてね」と教えてあげたということですね。

その時、たまたまそこにいた病棟師長が「あら、きちんと連絡ノートを見ていなかったの?事故になってからじゃ遅いのよ」と声をかけたところ、途端にBさんが怒りだし、Aさんに向かって「あなたのそういうところが嫌なのよ。もうコリゴリ!」と言い放ち、Aさんは怖くなって泣き出してしまったとのこと。

Aさんは、「忘れないうちにきちんと伝えようとしただけなのに」と言っているようですが、Bさんは翌日から出勤しなくなり、そのまま退職してしまったということですね。
AさんはBさんだけではなく、過去に何人もの同僚を怒らせているようですが、なぜそうなってしまうのでしょうか。原因を考えてみましょう。

正論を押しつける前に指摘される側の気持ちも考えて

「仲間の間違いに気づいて、正しいやり方を教える」という内容だけを見ると悪いところはありませんが、Aさんの言動は「きちんと伝えたい」という自分の気持ちにこだわるあまり、配慮が足りないと思われるポイントがいくつかあります。

まず、「ここに書いてあるでしょう?」と連絡ノートを見せながら話すのは、「証拠を突きつけて指摘」していることになります。そして、「間違いを認めて直してね」と言われれば、Bさんはその日の食事介助の仕事を否定されたように感じてしまいます。食事介助を終えて疲れている時に、正論を押しつけられて、いわゆる“ぐうの根も出ない”、反論できない状況に追い込まれ、悔しい思いをしているところに、看護師長からの指摘があれば、「Aさんのせいで職場での信頼を失った」と感じてしまうかもしれません。

Aさんは、「忘れないうちに、今すぐ正しいやり方を伝えたい」との思いから、無神経な正論の押しつけになってしまっているのです。もちろん患者さんの安全が一番重要ですから、食事介助のやり方を間違えていたBさんに問題があるのは言うまでもありませんが、注意の仕方にも配慮が必要です。相手を追い詰めてしまうのではなく、逃げ道を用意してあげられる余裕を持てると、相手の受け取り方も変わってきます。
Aさんはまじめで他の方の仕事にも気を配っているようですから、その「気づき」は大切にしつつ、今後は何か気になることがあれば病棟帥長に相談するようにしていただくのが良いと思います。

また、今回のご相談における課題は、重要な「注意事項」が助手たちの連絡ノートに書いてあるだけ、というところにあります。人は忘れるものですし、新しいメンバーが入れ過去のノートの記載だけで情報共有が難しいので、個人情報に配慮しつつ、スタッフが常に見るところに記載しておくなどの取り組みも必要ですね。

〈石井先生の回答〉

悪い人ではないのに配慮がなく、他人を怒らせてしまう人は案外どこにでも存在しています。本人は悪気がないだけになかなか直すのが難しいものです。正論で相手を追い詰めることのないように、注意の仕方も配慮すれば相手の受け取り方も変わることを理解してもらえるといいですね。(『月刊医療経営士』2022年1月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング