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概算医療費から読み解く
今後求められる医療機能とは

新型コロナを受けて医療ニーズは変わった
社会の変化を分析して自院の機能を見直せ

果たしてコロナ禍により病院経営は厳しくなったのか――。昨年の各種公開データを見ると、大病院から診療所まで、民間から公立まで、2020年度の最終損益はプラス傾向にある。なぜかは明確でコロナ対策に関する補助金や診療報酬の増額によって、収支が大きく改善しているようだ。しかし、この状態が永遠に続くことはない。今のうちにアフターコロナの世界を想定しておかなければならない。

概算医療費の傾向

20年度の医療費に関するデータが公開され、コロナ禍がどんな状況であったのか全容が見えてきた。厚生労働省が発表した20年度の概算医療費は42.2兆円で前年度比1.4兆円(伸び率▲3.2%)の減少となった。単に前年度より減ったというだけではなく、例年であれば高齢者の増加により年率1~2%程度の自然増が見込まれるので、増えるはずだった医療費も含めると大きな減少となったことがわかる。

平成の30年間で、ここまで大きく減少したことはない。1.4兆円の減少のうち医科が占めるのは1.24兆円(全体の88%)と大きく、入院が0.6兆円(伸び率▲3.4%)、入院外が0.65兆円(伸び率▲4.4%)となっており、入院も外来も減ったことがわかる。この値を「患者数」と「単価」に該当する、「受診延日数」と「1日当たり医療費」に分解すると、受診延日数が大きく減少し(入院▲5.8%、入院外▲10.1%)、1日当たり医療費は逆に高くなった(入院+2.6%、入院外+6.4%)。これらの傾向は想像に難くなく、コロナ禍により来院患者数は減り、長期処方や医療密度の濃い患者割合の増加などで診療単価は高まったのであろう。

病院と診療所に分解すると、病院は0.78兆円の減少(伸び率▲3.3%)で、診療所は0.46兆円の減少(伸び率▲5.3%)であった。影響額は病院のほうが大きいが、減少率は診療所のほうが大きい。診療所を診療科別にみると、小児科と耳鼻咽頭科が2割近い減少率となっており、患者数が大幅に減少していることがわかる(図1参照)。病院の外来でも似たような傾向だろうから、子どもを対象とした外来診療のあり方は見直しが必要であろう。

図1 令和2年度医科診療所主たる診療科別入院外医療費の伸び率

出典:厚生労働省「令和2年度医療費の動向」

感染対策は定着するのか

もう一つ興味深いデータが健康保険組合連合会から出されている。健保連のレセプトデータをもとに「新型コロナウイルス感染症の教訓を生かした医療」について提言した調査研究である。コロナの拡大前と拡大中の20年9月までのデータを疾病別に分析し、どのような傾向があったのかを示している(図2)。外来診療の患者数の増減パターンを3つに分類し、患者数が10%以上減少し、その後も戻らなかった場合(A)、その後戻った場合(B)、そもそもあまり減少しなかった場合(C)に分けた。それぞれのパターンでの代表的な疾病で言うと、Aは気管支炎や副鼻腔炎、Bは関節症や貧血、Cは糖尿病や心不全、などである。これらの結果も、医療現場にいる医療経営士からすると、何となく感覚に近いものではないだろうか。昨年は日本中でインフルエンザを中心とした、冬場のごった返した外来が見られなかったであろう。この状況はおそらく今年も継続され、アフターコロナでも変わらない可能性もある。そうなった場合、経営的にはBやCに比重をおいたほうが安定するのは言うまでもない。

同分析では、パターンAのうち感染対策(手洗いやマスク着用など)が影響したと考えられる急性疾病に限定すると、医療費の削減効果は全国換算で約4000億円に上ると推計された。言い換えると、国民一人ひとりがきちんと風邪予防をすれば、4000億円の医療費削減が可能ということだ。医療機関経営の視点からすると、患者減少につながり、死活問題かもしれないが、公衆衛生の視点からすると望ましい。たとえば、この削減された4000億円を元手に、全国630万人の小学生全員に、毎年寒い時期の6カ月間、毎日ディスポマスク(単価5円とする)を配布しても、60億円もかからない。インフルエンザの治療薬にお金を使うよりは、よほど健全な使い方だろう。

これまで予防活動には診療報酬はもちろん、大した予算はついてなかったが、学校保健や地域保健、かかりつけ医の予防活動などに予算を振り分けたほうが国民のQ0Lは向上するかもしれない。そうなると医療機関や医療者の役割も、治療のための場所だけではなく、地域の疾病予防の活動へと広がる可能性もある。

コロナ禍はある意味、全世界を挙げた社会実験の場ともいえる。人々の行動変容の結果、どのようなことが起こったのか、しっかりと検証し、既成概念にとらわれず、その結果を新しい社会を築くことに活かしていきたい。(『月刊医療経営士』2021年11月号)

図2 コロナ禍における受療行動の変容

出典:健康保険組合連合会 医療保障総合政策調査・研究基金事業「政策立案に資するレセプト分析にかんする調査研究V」

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

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