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へき地医療のあり方を変える
医療分野へのドローン活用の幕が開ける

医療分野のドローン活用は遠い未来のことではない
自院でどんな使い方ができるか今から検討しておくべきだ

ガイドラインが完成

空を見上げると、いくつかのドローンが飛んでいる、そんな風景が常識になる日がくるのだろうか。医療分野におけるドローンの活用というと、現在のところ、病院の上空撮影など、映像領域にとどまっている。しかし、実証実験レベルでは、医薬品やAED、血液の搬送といった医療領域でも搬送の事例が出始めている。
今年の6月には「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」が出された。対象はまだ実証実験について定めたものであり、日常的な運営については想定されていないが、徐々に環境が整備されてきている。

ガイドラインでは、①当該薬剤の品質確保、②患者本人への速やかで確実な授与、③患者のプライバシー確保――について定められている。
温度管理など①の品質確保については、当然のことであろう。
②では、ドローンで配送する人が誰なのか、責任範囲の明確化や、墜落や不時着した場合について示されている。②の一部と③では、基本的には処方箋を交付した薬剤は、看護師等の医療従事者を通して提供することとなっている。
しかし、確実に患者に授与されたことが電話や配達記録で確認ができ、薬剤の内容がわからないようなプライバシーの確保ができていれば、宅配ロッカー等を用いることも可能だ。また、服薬指導については、薬剤師による対面における書面を用いた実施が必要となっているが、対面にはいわゆるオンラインで映像を見ながらの実施も可能とされている。
明確に禁止されていることは、麻薬・向精神薬や覚醒剤原料、放射性医薬品、毒薬・劇薬等の厳格な管理が必要な薬剤の配送である。ドローンの墜落や不時着の可能性を完全になくすことはできないので、仕方ないだろう。
数年前なら、結局、効率的にできない条件が盛り込まれそうな分野であるが、前述のとおり、柔軟な対応が可能なガイドラインとなっている。
へき地診療所などに届いた薬剤を、宅配ロッカーなどに事務員が入れておき、受け取ったら、オンラインで確認の電話をして、顔を見ながら薬剤師から指導を受ける――といった流れも不可能ではなさそうだ。

これが実現されると、中山間地域や離島の拠点には看護師がいて、本院に医師や薬剤師がおり、医師とはオンラインで診療を行い、処方箋に基づき、へき地拠点に薬剤をドローンで配送する、といったことも可能になる。現在でも宅配便で同じような運用も不可能ではないが、その配送がドローンを活用してタイムリーに行えるようになる。

※ https://www.mlit.go.jp/common/001411070.pdf

ドローン飛行の規制

夢が膨らむが、そもそもドローン飛行についての規制が、まだ厳しい状況にある。レベル1~4に区分され規制されている(図表参照)。

図表 ドローンの飛行レベル

出典:首相官邸「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」資料

レベル1では目で見える範囲内で、人が操縦し、無人・有人の地域を飛行することであり、これが撮影などで使われている領域である。
レベル2は人の操縦ではなく、自動飛行をするというものであり、目で見えている範囲であれば、比較的柔軟に活用することが許されている。
次のレベル3では、目で見えない範囲を自動飛行させる場合である。すでに実験事例はあるが、海洋や山間部など無人地帯のみとなっている。民家の上空や道路など、人がいるエリアでの飛行は許されていない。

2022年度を目途に検討が進められているのが、有人地帯でも飛行が可能となるレベル4である。これが可能となると、先述のようなへき地医療のモデルが実現可能となる。現在では、海洋に面した施設間などではレベル3の範囲で実施ができるため、そのような特定の環境下における医療施設ではないとできない。

レベル4の検討に合わせて、ドローンの操縦ライセンス制度についても検討が進められている。現在は特にライセンスがなくても操縦は可能で、素人でも買ったらすぐに使うことができる。
今後ドローンを使った実証実験や社会実装されていくことを想定すると、その都度の許可制では現実的ではない。自動車のように、操縦方法を学び、ライセンスを付与し、機体も登録管理していくことが想定されている。今でも、レベル3の実証実験では操縦ライセンスを持つ人が、目視していることが理想とされている。
そうなると、医療品を車で搬送するドライバーは不要になるが、ドローンを操縦する人は必要になる。現時点では人件費削減とまではなりそうにない。今のところ、中央監視で遠方のドローンを操作するという形は想定されておらず、レベル4が実現しても、ドローンの出発地点にはライセンスを持った人がいることが求められそうである。

実装されるような段階では、ドローンの操縦者を外部に委託するよりも、病院職員でライセンスを持ち、配送時にはドローンを監視するような運用が考えられる。近い将来の病院建設では、ドローンの発着をする場所(ポート)や、そこからの搬送ルートを考慮することも求められるかもしれない。

現時点では制度的にも、機材等の費用的にも現実的な環境ではない。しかし、世界中で同じような取り組みが進められているので、環境整備は加速度的に進んでいく可能性がある。5年や10年もすれば、空を見上げればドローンが飛んでいることも十分に考えられる。(『月刊医療経営士』2021年8月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)

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