MMS Woman Lab
Vol.84
失敗の原因と改善策を自分で考えられるように導く

<今月のお悩み>先日、あるスタッフが電話口で5分以上もひたすら謝罪をしていました。何があったのかと思い聞いてみたところ、送付した健診結果の氏名に誤りがあったとのことでした。「一生懸命謝って、やっと許してもらえました」と言うので、誤記入に気づかなかった理由を聞いたら「申し訳ありません。次から気をつけます」と繰り返すばかり。一緒に再発防止策を考えたかったのですが、どう接すればよかったのでしょうか。

失敗をきっかけにして成功に近づくためには?

偉人の方々の名言集を読んでいると、勇気づけられる言葉がたくさんあります。大切なのは、その「名言」で心が少し軽くなり、振り返りと改善という「次」の行動に移ることです。
物理学者A・アインシュタインは、「失敗したことのない人間というのは、挑戦をしたことのない人間である」という言葉を残しています。新しいことに挑戦する人たちにとっては心強い言葉です。身近なところでも、昔から言われていることわざに、「失敗は成功のもと」というものがあります。どちらも「失敗」というキーワードがあるとおり、人は「失敗」するものです。そしてどちらの言葉にも共通しているのは、「失敗というきっかけから、その原因を追究し、失敗の起こるポイントを明確にして改善を図っていくことで、成功に近づけることが重要だ」という考え方です。

今回のご相談ですが、スタッフが謝り続けている場面を見ると心が痛みますね。何があったのか、お客様から激昂されているのか、重大なアクシデントが起きたのかなど理由が気になりますし、すぐに声をかけるのは当然です。事情としては、健診結果をお送りした際のお名前の漢字に誤りがあり、差し替えることになったのですね。健診結果がご本人のものでまずは一安心ですが、名前が間違っていれば受け取った方は不快な思いをしますし、なぜ間違えたのか、本当に自分の検査結果なのかと不安にもなります。そしておそらく、「今後同じような間違いを起こさないためにどうするのか」という改善策を知りたかったのではないでしょうか。

不快な思いをさせてしまったことに対して、「申し訳ない」という気持ちを表現するのは悪いことではありませんし、相手の気持ちに寄り添うためにも、丁寧に言葉を選んでお伝えすることは大切です。しかし、スタッフは5分以上「申し訳ありませんでした」「以後気をつけます」を繰り返しているだけで、あなたの声かけに対しても、「一生懸命謝って、やっと許してもらえました。すぐに修正して送ります」という返答だったとのこと。「どうしてお名前の漢字の誤変換に気づかなかったか」との問いには「申し訳ありません。次から気をつけます」という答えが返ってくるのみで、それ以上話をすることができなかったのですね。
ここに大きな課題があります。

手順の確認と確実な実施のためのルールづくりと教育が大切

このスタッフは、失敗から逃げたい一心で、謝り続けていただけなのです。なぜ逃げたかったのでしょうか。「怒られるのが嫌」「説明がうまくできない」「間違ってしまったことは反省しているのだから仕方ないと思ってほしい」など、思いの背景を深く分析していくと真の課題が見えてきます。スタッフは改善策が見つけられていないため、「ちょっとしたミスだから、とりあえず許してもらおう」という気持ちになっていたのでしょう。
しかし、そのままにしておくと、いずれ同じ間違いを起こすことになります。なぜその間違いが起きたのかを振り返って分析し、手順を見直していくことが大切です。

このケースでは、宛名が健診システムからの出力ではなく、手入力しているのであれば、入力後にチェックを行うという工程が必要です。そもそもその手順がなかったのか、手順どおりにチェックを行っていなかったのかによって対応策は変わりますね。どこで間違えるリスクがあり、どこで回避するチャンスがあるか、手順の確認確実な実施のためのルールづくりと教育が欠かせません。今回の「失敗」をきっかけにその手順の見直しをすることが一番大切であることをしっかり伝えましょう。

この「振り返って考える」作業は失敗した本人にはつらいことかもしれません。手順のとおりにチェックをしなかったことや、独自のやり方に変えてしまっていたことを正直に言わなければならないこともあるからです。そのような場合は、ルールを守っていなかったことを責めるのではなく、部署で定めたルールどおりに全員が業務を行うための仕組みをつくっていくためにどうするかという視点で話をすると良いでしょう。

〈石井先生の回答〉

泣きながら謝り続ける子どもに、お母さんはどう声をかけるでしょうか。どうすれば良かったかを一緒に考え、子どもが自分で考えられるようにかかわりますね。大人ですからそこまでする必要はないとは思いますが、ミスを責めるのではなく、考える習慣をつけるように導いていきましょう。(『月刊医療経営士』2021年7月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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