News monthly
感染症対策を軸に水面下では
医療改革が進められている
新型コロナと戦う現場を守るために
新型コロナ後を見据えた経営戦略の見直しを急げ
25年に向けた社会保障改革 いよいよ最終局面を迎える
内閣府の経済財政諮問会議において、今年も経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の取りまとめが進んでいる。社会保障費については、団塊の世代が75歳に入り始める2022年度の前である19~21年度の3年間を、社会保障改革を軸とする「基盤強化期間」と位置づけ、社会保障費の実質的な増加を高齢化による増加相当の伸びに収める方針が定められた。今年度でその期間を終えるため、新たな目標が盛り込まれるのが今回の骨太の方針である。
15年~20年までの5年間に75歳以上の高齢者は16%増加し、1872万人になった。基盤強化期間の3年間の医療費は、19年度こそ43.6兆円の伸びとなったものの、20年度はコロナ禍で過去半世紀に例のない2~3%のマイナスが予想されている。21年度もコロナ禍の影響を受けるだろう。この間の診療報酬改定は、本体部分はほぼ変わらず、薬価を大きく抑える方向性が堅持された。19年度の改定でも薬価等は▲0.48%と2000年度以降の改定で常にマイナスとなっている。
今後5年間は、75歳以上の高齢者がさらに308万人増えると予想されている。もう何年も前から25年をどう乗り越えるのかを念頭に、社会保障制度改革が行われてきた。そのラストスパートの3年間に、どんな目標が示されるのか。なお、25年を境に75歳以上の高齢者の増加速度は急速に低下していく。
緊急時の体制づくりは民間病院のコロナ対応が課題
今回の経済財政諮問会議で、これまでの議論と大きく変わったのは新型コロナの経験を踏まえた方針の見直しが行われた点である。感染症が流行した際の緊急時対応と、平時の対応を分けて考える必要性が指摘されている(図表1)。緊急時対応では、民間病院を含め緊急時に必要な医療資源を動員できる制度的仕組みの構築が必要とされ、病床の確保や、ワクチン接種ができる人材(資格)の拡大、民間病院を含めて緊急時に必要な医療資源を動員できる仕組みなどが示された。
感染症患者を受け入れる病院への診療報酬による減収分補填の議論もされており、災害時に適用される診療報酬の概算払い方式にも言及されている。これは災害時には診療録等の紛失等により診療行為を十分に把握できないため、直前の1月と同じ報酬を概算して支払うものであり、過去の大規模災害時に適応した実績もある。このような方法も含め、緊急時の医療機関の経営の安定化を図る仕組みが検討されることになる。
背景には、民間病院がコロナ患者をなかなか受け入れられないことがある(図表2)。万一の際に無尽蔵に財政支援がある公立病院と民間病院では、リスクテークできる範囲が異なることは致し方ない。今回のコロナ禍でも、緊急融資という形で資金面での支援はされたが、結局は借金が増える形であり、公立病院の繰入金のような資金ではない。一方で、日本の医療機関に占める民間病院の割合は多いため、緊急時に民間病院が機動的に動ける体制の構築が模索される。
図出典:令和3年第5回経済財政諮問会議有識者議員提出資料
平時の対応は大規模化・集約化 政策誘導で統廃合を後押し
一方、平時における構造改革については、救急医療体制の集約化や地域医療連携推進法人制度による経営統合の強化、医療機関の機能分化や統合の推進などが示されている。これだけを見ると、これまでと代わり映えしないが、コロ禍の経験が影響している。総病床数が多い半面、ICUが少ない、医療従事者の多い病院ほどコロナ患者の受け入れができたという意見がある。つまり、統廃合による機能分化や経営の大規模化を進めることが、感染症の蔓延という緊急時の医療体制維持につながるというわけだ。今後はより政策誘導がなされることが考えられる。
また、データの迅速な活用により、コロナ禍でも、リアルタイムに疾病や医療提供体制について分析ができることも言及された。コロナ禍で登場したCOCOAやG-MISなどのシステムはうまくいっているとは言い難い。現状をタイムリーに反映したデータの収集と分析が、緊急時の正確な意思決定に重要なのは言うまでもない。マイナンバーの活用も含めて、平時にそうした体制がつくれるかが求められる。ほかにも、DPCのように入院期間がのびると医療費が増える点数構造ではなく1入院での包括払いの拡大や、1つの処方箋を複数回利用できるリフィル処方せんの解禁なども出ている。
今回の議論が、そのまま厚労省の政策になるわけではないが、首相直下の諮問会議からの指摘であり無下にすることはできない。今後の方針のとりまとめを注視したい。(『月刊医療経営士』2021年6月号)
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)