MMS Woman Lab
Vol.82
働き方改革の目的を正しく理解し
気持ちよく働ける職場づくりを

<今月のお悩み>病院の医事課長を務めています。当院ではコロナ禍で一部在宅勤務を取り入れており、事務職員はシフトを組んで出勤と在宅勤務を振り分けています。先日、出勤予定の職員が発熱で急に休むことになり、在宅勤務の予定だった職員に出勤してもらうよう連絡したところ、「今日は在宅勤務の日なので、出勤はできません」と断られてしまいました。業務上、在宅でなければいけない理由はないのですが、職員の都合を優先すべきなのでしょうか。

「働き方の多様性」を認めることは「自由な働き方」とイコールではない

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、この1年で私たちの働き方は大きく変わりましたね。新しい生活様式のなかでの新しい働き方として、オンラインワークや時差出勤が推奨されています。医療・介護の現場ではなかなか在宅ワークの導入は難しいのですが、それでもオンライン会議や部門内での時差出勤などは増えてきているようです。
この「新しい働き方」はコロナ禍で加速し、ある程度浸透しましたが、そもそもは「働き方改革」のなかで、これからの働き方の多様性として検討され、導入が進められてきたものです。社会全体として「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」という大きな課題を抱えており、1億総活躍社会の必要性が唱えられています。それは、育児や家族の介護を担っている人、何らかのハンディキャップを持っている人に対しても、働き手として期待がかかっているということです。

「何かとの両立」という働き方のニーズが高まることで、働き方にも「多様性」が求められるようになります。「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く人の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会の実現を目指しているものです。
しかしこれは「働き方」の多様性を認めていくということであって、雇用関係があるなかにおいて「働き方」を個人が自由に決めて良いということではない、という点に注意が必要です。もちろん、そのような「自由勤務」を掲げている企業もありますが、自分たちの病院、施設、会社がどのような勤務制度になっているかはきちんと理解をして、全職員で共有しておく必要があります。

在宅勤務は「権利」ではない 明確なルール作りが不可欠

ご相談の事例ですが、在宅勤務と出勤を組み合わせたシフトを組んでいる病院の医事課で、出勤予定だった職員が発熱で急に休むことになったため、在宅勤務だった職員に出勤するよう電話をしたところ、「今日は在宅勤務の日なので、出勤はできません」と断られてしまった、ということですね。これは、そもそも職員が大きな勘違いをしています。在宅で勤務するか、出勤して病院で勤務をするのかという「働く場所」をシフトで決めているだけですから、職員は当然「出勤」するべきですし、「出勤できない」理由がわかりません。もしかするとその職員は、在宅勤務を有給休暇と同じように「権利」と思ってしまっているのかもしれません。

有給休暇にしても、それは「権利」ではありますが、労働という義務を果たしたうえで、職場の許可のもとで得るものです。ですから課長であるあなたは自信を持って、「シフトの変更です。今日は出勤に切り替えてください」と指示を出してよいのです。
それでも職員が「急なシフトの変更は困る」と言ってくるようであれば、その理由をしっかり聞いてみるとよいでしょう。在宅勤務の日は「自宅にいられる特別な日」ではありませんし、もし何か予定があってそれが理由で出勤できないのであれば、休暇を申請するように伝えましょう。

これからは病院においても、在宅勤務との併用やフレックス勤務制度、副業の許可など、多様な働き方の導入が進むでしょう。その流れのなかで、今回のような混乱や問題が生じることも考えられます。そうした事態を防ぐためにも、まずは導入前にしっかりとルールをつくっておくことが大切です。
フレックス勤務では、コアタイム以外での会議などもあるでしょうから、その場合はどう対応するのか。副業を認めている場合であれば、残業指示を出した時に「次の仕事があるので、今日は帰ります」というケースを認めるかどうかなどもルールとして決めておく必要があります。

せっかく働き方改革を進めていくのであれば、職員が気持ちよく働ける環境に整えていかなければ意味がありません。誰かが得をしたり損をしたりすることなく全員が納得して働ける職場をつくっていきたいですね。

〈石井先生の回答〉

働き方の多様性を認めることは、好きなように働いて良いということではありません。働き方改革を進めるうえではさまざまなケースを想定してルールをつくり、全員が納得して働ける環境を整えることが必要です。そのうえで、雇用関係の「義務と権利」を職員に伝えることも大切ですね。(『月刊医療経営士』2021年5月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか