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オンライン資格確認のトラブル
これは日本社会の問題の縮図である

厚生労働省の怠慢と結論づけるな
なぜこんなトラブルが起きるのか
背景に目を向けると本当の問題が見えてくる

政府主導のシステム不具合

オンライン資格確認のシステムに不具合が発生した。当初、2020年度末からのトライアル、21年4月から普及させる予定だったが、「遅くとも10月まで」延期すると発表された。プレ運用でエラーが多発し、想定どおり機能しなかったことが原因とされる。
保険者の登録した個人番号に誤りがあった、資格変更のタイミングでの情報不足、データの書式違いなどでエラーが起こり、その対応も十分に想定されていなかった。膨大な量で、難易度も高いのは確かだが、もう少し対策を練っておけなかったか。他にも、カードリーダーの生産と医療機関のシステム改修の遅れなどの課題も見えてきている。

政府の肝入りのシステムが動かない、というのは定説になりつつある。厚生労働省では昨年、接触確認アプリ(COCOA)を導入したが、初期のバグでトラブル対応が多発。開発スピードも遅く、リリースできたのは6月中旬だ。早い国では第1波が広がったころにはリリースされている。なお、直近の普及率は人口の1割程度で、通知しても気づかれていない、スマホのOSの更新に対応しきれていない、との指摘もされている。
コロナの特別定額給付金の申請に、マイナンバーを活用したシステムもうまく機能しなかった。オンラインでの入力内容の不備や、給付金を受け取る自治体での未対応、オンラインのほうが紙による申請よりも時間がかかるなど、惨めな結果であった。
規模が大きく簡単にできるものではないが、これだけ立て続けに失敗するのは、技術や土壌がないことの表れではなかろうか。

台湾のマスクシステム

参考までに、世界でも評価されている、台湾でのシステム整備を改めてみてみる。台湾では国中からマスクが蒸発するなか、マスク在庫管理アプリを短期間(一説では3日間と言われている)で構築し、国民健康保険証を提示するだけで、薬局でマスクが手に入るようにした。さらに、マスクの在庫状況をリアルタイムで示すマップを作成し、オンラインで注文しコンビニやスーパーでも配給する仕組みを構築。同システムを昨年の2月には立ち上げている。結果としてロックダウンという大きな経済的マイナスを受けず、コロナ禍をコントロールしている。
こうした事例を出すと、約2300万人という小さな人口の国だからできたとの反論もあるが、その半分しかいない東京都でもできていない。技術的にも制度や文化的にも学ぶことはあるだろう。

エラーを受容できるか

もちろん、システムにバグやエラーはつきものだ。完璧を求めすぎ、いつまでたってもリリースできないことのほうが損失は大きくなることもある。世界屈指のマイクロソフトやアップルなどでもエラーは起こり、利用者からのフィードバックを得て、常に改修している。不完全な製品をリリースするのは良くないとの意見もあるだろう。しかし完璧なものなどできるはずもなく、短期間でどんどん改修し、より使い勝手の良いものにするのがIT業界の常識だ。

日本の文化は、完璧なものを求め、完璧だったはずのものにエラーがあると袋叩きにする傾向がある。失敗したらそれを直せばいいじゃないか、という寛容の精神も必要だ。今回の失敗で、たとえリリースが可能な時期になっても導入する医療機関や利用する個人が現れてこない、となってしまわないか心配である。

台湾のシステムでも、リリースしてからも日々改修を続けている。たとえば、視覚障がい者が使いにくいという指摘を受け、それに対応する改善をしたという。失敗やミスを許さないのではなく、それらを改善につなげる仕組みを最初から考えておくことが必要であろう。

全体最適を実現する土壌

台湾のシステムでは、単にマスクの情報を管理しただけではなく、短期間に国内生産の体制を構築するなど、マスクの流通の改善も同時に進められた。こうした取り組みは、日本でいう厚労省だけではなく、旧運輸省や経済産業省など部署間を超えた調整が必要だ。そのため、各省庁に任せるのではなく、代表者が集まり全体を統合する「中央感染症指揮センター」を内閣府直下につくり、対策が進められたという。日本でもそうした体制があるのかもしれないが、本当に機能したのだろうか。

厚労省が主導するコロナ関係のシステム一つとっても、G-MIS、HER-SYSと複数の独立したシステムが次々にリリースされ、現場は混乱している。最近ではコロナワクチン予防接種用のV-SYSが加わる始末である。筆者がいる熊本県では、さらに熊本県独自のワクチン配送システムK-SYSまでつくられ、ログインIDとパスワード管理だけでもリストが必要なほどだ。
これらの動きの最上位には厚労省があり、担当者もそれぞれ違うのだろう。統一や簡素化といった視点は微塵も感じられない。

システムをつくる技術もお粗末ながら、部署間や省庁間を統合して全体を管理することができていない。これが今の日本の現状ではなかろうか。”ワンチーム”、”一丸となって”とのスローガンはいいが、実際にはそれができず、その歪みが末端の現場に近づくほど大きな手間となって現れてくる。

システム開発の技術、失敗を修正する柔軟な社会、部署を超えた組織をつくる力、これらが絡み合って今回の問題として浮き彫りになっているのだろう。これを乗り越えられるのかどうか辛抱強くみていきたい。(『月刊医療経営士』2021年5月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)