MMS Woman Lab
Vol.81
加算の有無が業務の価値を決める?
仕事の評価は成果を上げてこそ!
<今月のお悩み>病院のほか複数の施設を有する法人の本部事務局に勤務しています。今回の介護報酬改定を受け、介護医療院で管理栄養士の採用を検討することになりました。事務長から「新しい報酬体系で採用できるか試算してくれ」と指示を受けシミュレーションをしていたのですが、「加算だけじゃ雇えないよなぁ」との事務長の言葉を思い出し、加算で採用が決まるなら加算がついていない事務職はどうなるのだろうと、なんとなく肩身が狭くなりました。
加算がついていることが評価基準になるわけではない
診療報酬改定、介護報酬改定があるたびに「算定基準はどうなる?」「新しい加算は?」などとそわそわしてしまうのは業界あるあるかもれないですね。この4月は介護報酬の改定があり、感染症対策にBCP、専門職の人員配置基準なども大きく変更がありましたので、介護保険サービスを提供している事業所などでは対応に追われていることと思います。
今回の改定について少しお話しすると、介護保険事業の本来の目的である「自立支援」をどのように進めるのかを改めて見直し、そのうえでエビデンスに基づいてサービスそのもののあり方を評価していくという視点が随所に見られたものになっています。なかでも、栄養管理については、施設系・在宅系どちらにおいても強化が図られているのが特徴です。たとえば、介護医療院では、管理栄養士を配置して入所者全員への栄養ケアが求められるようになりました。
さて、今回のご相談ですが、事務長から「介護医療院で管理栄養士を採用できるかどうか、新しい報酬体系で試算を出してほしい」と依頼があり、その時に事務長が言った「加算だけじゃ雇えないよなぁ」という言葉が引っかかっているとのこと。「加算で人件費が賄えるか」というのは、病院の経営者層からは、たまに漏れ聞こえてくる言葉です。
そもそも、診療報酬でも介護報酬でも、そのサービスを提供するために必要な人件費や設備費、材料費などを加味した報酬が設定されているのですが、「基本料」に含まれるサービスについてはどうしてもその内容が見えにくくなってしまいます。
たとえば、入院基本料で言うと、「配置基準を満たすためには看護師が○人必要で、その人件費を賄うためにはあの加算を取らないと……」と考えてしまいがちですが、そもそも入院基本料のすべてが看護師への対価というわけではありません。そのなかには医学管理料や療養環境を維持するための費用も含まれており、診療情報管理はもちろん、それらを維持するために必要な事務の仕事についても評価したうえでの点数(単位数)となっています。
医療機関や介護保険施設で働いていると、つい「加算の算定」という基準で考えてしまうことが多くなります。事務職員からは「自分たちには加算がついていないから」とか、基本料に含まれてしまって加算が算定できないから評価されない、人件費が出ない、という表現を聞くことがよくあります。
しかし、基本料に含まれたということは、基本的なサービスとして提供しなくてはならない「基準」であるということなのです。当然あるべきサービスとして“市民権を得た”ということなのですから、安心して業務に当たっていただきたいものですね。
評価の基準は生産性の向上どのように成果を出すかが大切
ここで大切なのは、「対価があるから仕事(存在)が評価される」のではなく「成果を上げることで評価される」ということです。これは、同じ時間のなかでいかに成果を上げ、クオリティを高めることができるかという労働生産性の考え方であり、この生産性を高めることが仕事に対する評価の基準になります。
何かの資格がある、何時間滞在していたということではなく、何を成果として残したかが仕事の評価なのです。看護師も管理栄養士も、診療報酬を算定するために国家資格を取って病院で働き始めたわけではないと思いますし、患者さんのために自分の力を使いたい、という思いがあってのことではないでしょうか。
自身の仕事への評価が気になる方は、そもそもどんな仕事をしたいと思っていたかを思い起こしてみるのも良いと思います。事務のスタッフも「病院」という職場で働く専門職を支えることで、間接的であっても患者さんのために働きたい、医療の現場の役に立ちたいという思いがあるのではないでしょうか。
改めてその思いを確認することで、自分の仕事に自信を持つことができるはずです。そのうえで、成果を出すために前向きに取り組んでいただきたいと思います。
〈石井先生の回答〉
医療機関では診療報酬や介護報酬を基準に考えてしまうため、自分たちの働きへの評価を感じにくいかもしれません。しかし、その業務はなくてはならないもので、きちんと評価されています。患者さんや利用者さんに喜んでもらうために必要不可欠なものだと百信を持って取り組んでください。(『月刊医療経営士』2021年4月号)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか