MMS Woman Lab
Vol.80
相手の言いなりになるのではなく
お互いの信頼関係を育てること
<今月のお悩み>病院の受付で勤務をしているのですが、“特別待遇”を求める患者さんとそれを許している主任に悩んでいます。過去に会計の間違いでクレームになったことがあり、その時に対応した主任がそれ以来患者さんの言いなりになってしまっていて……。毎回予約もせず来院し、「ちょっと今日急いでいるから先に診察させて」などのわがままを言うのですが、主任が受け入れてしまいます。その患者さんから感謝され、信頼されていると思っているようなのですが、何かモヤモヤしています。
特定の患者への“特別待遇”は新たなクレームの種にもなる
新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますので、医療現場の皆さんは緊張感と忙しさで、大変な思いをされているとお察しします。心と体の健康が保たれるようにお祈りしています。
そんな緊張感のある日々の業務の中で、「違和感」を覚えることがあると、心が乱れますね。
どんな世界にも多かれ少なかれ「特別待遇」の人は存在します。たとえば、百貨店の外商部が担当するお客さんや飛行機のファーストクラスを利用するお客さんは、他のお客さんと同じように「列に並んで順番を待つ」ということはありませんね。では、病院の外来で特別待遇を受けるとしたら、どのような方でしょうか。
それはやはり、誰よりも優先して医療提供を受ける必要がある方ではないでしょうか。つまり、救急搬送されてきた患者さんや待ち時間中に急変した患者さんなどです。もちろん、登録医療機関から紹介されて受診される方や、提携の介護保険施設からいらっしゃる方も通常の外来受付とは別の窓口があると思いますが、一定のルールに基づいた優遇措置になっているところが多いでしょう。
さて、ご相談の「割り込み常連」の患者さんですが、その環境をつくっている主任にも問題がありそうです。
過去に入院中の会計の間違いから大きなクレームに発展し、この主任が対応したとのこと。それ以来、その方が診察に来るたびに主任が呼び出され、予約をしていないにもかかわらず診察待ちの順番を変えさせて早く診察に入り、医師や受付の方が次回の予約をすすめても、「いつ来られるかわからないから」と言って帰ってしまわれる、ということですね。
受付を担当しているスタッフから見ると、主任が自分で直接電子カルテを操作して順番を変え、医師に話をして、診察の順番を入れ替えてしまっているのであれば「いつの間に?」という感じにもなります。もちろん個別の事情で「特別」な対応が必要な患者さんもいるとは思いますが、この方のように毎回特別対応になるケースはルールを乱すことになります。
多くの患者さんから待ち時間に対して苦言を言われることが多い受付スタッフの前で、「いつもありがとな」と患者さんに言われている主任を見て「自分ばかり良い人になって」と、ちょっと気分が悪くなるかもしれません。また、ほかの患者さんからのクレームにつながる可能性もあります。
要望をただ受け入れるのではなく真摯に対応することが大事
過去にトラブルがあり「またクレームになるといけないから」という理由で、この主任は患者さんの「言いなり」になっているのではないでしょうか。特別な事情があり、そのうえで病院として判断して融通するのと、患者さんの言いなりになるのは大きな違いです。そして、ここが重要なのですが、患者さんの要望をただそのまま受け入れているだけでは、信頼を回復することにはつながりません。
それは「便利づかい」されているだけであって「良い人」ではなく相手にとって「都合の良い人」になってしまっているだけだからです。この関係が続けば、患者さん側の要望はエスカレートし、それに対応できなくなったときに大きなクレームになってしまうということも考えられます。
直接そのように主任に伝え、患者さんに正しいルールに則った受診をすすめていただくのが一番良いと思いますが、なかなか言いにくいことかもしれませんから、個人面談の機会や上席の方と話をする機会があった時に、「主任が患者さんに便利づかいされている」ことをお伝えするのも良いと思います。
その時に大事なのは、感情的に「あの患者さんはズルい」「主任ばかり良い人になっている」などと伝えるのではなく、主任が本来の業務の時間を削ってその患者さんに「便利に使われてしまっている」ことをきちんと伝えることです。そうすれば、主任の行動の問題点については、上席の方が対応を考えてくれるはずです。そのうえで、患者さんに対しては病院として、ルールに則った受診をおすすめするように対応をお願いすると良いでしょう。
〈石井先生の回答〉
患者さんに信頼される職員は、「都合の良い人」ではなく、親身になって考え、正しい対応をしてくれる「良い人」であるはずです。今の状態が続くと、より大きな問題に発展する可能性もあるときちんと伝え、患者さんにもしっかりと説明し、お互いの信頼関係を改めて築いていくことが大切です。(『月刊医療経営士』2021年3月号)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか