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21年度介護報酬改定によって
「科学的な介護」の幕が開ける

科学的な介護は確実に進む
目先の点数にとらわれず積極的にデータを活用し
介護サービスを最適化せよ

純粋なプラス改定で決着

2021年度介護報酬改定の全容が見えてきた。昨年11月時点では、新型コロナウイルス対応としてプラス改定を求めた厚生労働省に対して、財務省はいつものごとく報酬増は困難としていた。しかし、ふたを開けてみると0.7%のプラス改定だ。この程度では、疲弊する介護現場を救えない、との声もあるが、介護業界に限らずコロナ禍で厳しい業界はたくさんあり、素直に喜ぶべきであろう。

中身については人員増などの新たな体制整備や取り組みが必要な加算もあるが、基本となる点数は全サービスで上がっている。また、21年9月まではコロナの特例として0.1%が上乗せされる。全体的な底上げに加え、新たな取り組みを行うことで、加算分の増収を見込むことができる。

科学的介護の下地づくり

興味深いのは、データ活用の仕組みが盛り込まれたことだ。「介護サービスの質の評価と科学的介護の取組の推進」という項目で、「CHASE・VISIT情報の収集・活用とPDCAサイクルの推進」が盛り込まれた。「できる事業所だけ」という位置づけだったCHASEやVISITを積極的に推進するという意図を感じる。

VISIT(monitoring & eValuation for rehabilitation Services for long-Term care)は通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションを対象とし、リハビリテーション計画書等の情報を集めたものだ。18年度改定で評価され、リハビリマネジメント加算(IV)が設けられた。同加算(III)に、医師による患者・家族への説明が必要と、ハードルが高いこともあり、現時点で届け出ている事業所は全体の1~3%程度しかない。

CHASE(Care, HeAlth Status & Events)は厚労省の「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」で検討し、20年からデータベースの運用を開始している。VISITと重複しないリハビリを除いた、認知症や口腔、栄養といった265項目である。これまで介護報酬では評価されておらず、手上げ方式で参加を求めてきた。
今回、この2つのデータベースを統合して「科学的介護情報システム」(Long-term care Information system For Evidence:略称LIFE)とした。

導入インセンティブとして介護報酬で月40単位(科学的介護推進体制加算)が設けられた。施設系サービスには疾病状況や服薬情報を追加し、上位区分の月60単位が新設された。要件として、データ提出だけではなく、データによりフィードバックされた内容をもとに計画書を見直すというPDCAサイクルを回すことが求められる(図表)。改定資料にある事例では、入所時からのADLの変化が全国平均より低いといったことが明示され、それを計画改善に活かす、とされている。

図表 科学的介護推進体制加算の説明スライド

先行する医科のデータ活用

ピンときた読者は多いだろう。DPCのようなデータ収集の仕組みが介護でも始まろうとしているのだ。DPCに関しては当初、一部の急性期病院に限定していたデータ提出が、今ではほとんどの病院で求められ、外来や重症度、医療・看護必要度などのデータも集められている。

介護と違うのは、医科ではもともと出来高算定で、算定用の診療行為データを入力する仕組みがすでにあったことだ。そのデータを元に、入退院経路やADLといった追加データを紐づける仕組みとなった。介護で求められるLIFEのデータの多くは新規で入力したり、手書き項目をデータ化したりする作業が発生する。
既存の介護システムや帳票類からどれだけ現場負担をかけずに、データを作成できるかが課題だ。煩雑な入力手順となると、現場スタッフがPCの前に入り浸ることになりかねない。システム会社との交渉や、事務員の設置など知恵の出しどころである。

導入する意義はあるのか

そこまでして、導入する必要があるのか、との見方もある。利用者1人につき、たかが月40-60単位であり、経済的なインセンティブとなるかは微妙だ。現場に手間をかけて不満が出ることは間違いない。そのため100単位上乗せされるVISITも導入が進まなかった。今回の科学的介護推進体制加算も同じような反応が予想される。爆発的に広がるというより、それなりに体力がある法人から徐々に広がっていくと考える。しかし、医科の世界を見ても、中長期的には広がっていくことは間違いない。

データを集めたところで、本当に介護の質が向上するのか、という声もある。こちらも、医科で起きたことを見ると一目瞭然である。2000年代初頭は同じ疾病でも大学病院間で大きな治療方針の差があったが、診療内容は標準化され、在院日数は短くなってきた。それまで医師や医局の暗黙知で比較しにくかったことが、日本中の治療がDPCデータで可視化され、多くの疾患で標準化が進んできた。これがデータの威力だ。

介護の世界も、何が良い介護なのかがわかりにくかったが、多方面のデータで可視化され、標準的な介護が求められるようになるだろう。導入するタイミングはともかく、どんなデータが日本中から集まってくるのか、目をとおして、データの活用方法を考えてみたい。(『月刊医療経営士』2021年3月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)