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今春開始のオンライン資格確認
補助金を元手にDXの推進を急げ

新型コロナを受けて補助金は増えている
これらを有効に活用してデジタル化を推進せよ

1県あたり4億円の補助金「面倒くさい」で逃してないか

マイナンバーカードを活用したオンライン資格確認が2021年3月から開始される。
具体的には国が推奨しているマイナンバーカードを健康保険証のように活用し、リアルタイムで保険の資格確認ができるようになる(図表)。そのために必要な顔認証付きのカードリーダーや電子カルテ等との接続費用は国が負担してくれる(負担金額に上限あり)。
すでに申し込みが開始されており、今年3月までに申請を行えば補助金の補助率も通常の1/2から全額へ優遇されている。
本誌を購読しているような医療経営士がいる医療機関であれば、すでに手続きは済んでいるだろう。しかし、全国的にはまだ申請していない医療機関も多いと聞く。なぜ進まないのか。

最も初歩的な理由は「そもそも知らなかった」ということであり、しっかりと情報収集してもらいたいが、おそらくそうした医療機関では本誌を読むこともないであろう。
次に理由として想定されるのが、補助金のハードルである。補助金はレセプト算定業務のようにルーチン化されていないところがほとんどであろう。補助金の内容によって総務部門、労務部門、経営企画部門など、対応部署が異なるのではないだろうか。どんな補助金が出てくるかもわからず、申請したからといって必ず認定されるわけでもないため、固定された業務になりにくい。

コロナ禍でいろいろな補助金や慰労金が支給されているが、申請していない医療機関も多数あるという。面倒くさい、手間がかかる、やり方がわからないといった理由でみすみす補助金を逃している。
14年に消費税が5%から8%に増えたときに創設された「地域医療介護総合確保基金」により、医療と介護分野を合わせて約2000億円(消費税10%となった20年度から増額)の予算が設けられている。
47都道府県で単純に割ると、1県あたり約42億円になる。これらの予算が単年度ではなく毎年配分されており、形式としては県を経由した補助金となる。補助金の性質上、手を挙げないと1円たりとももらえない。

筆者は、補助金を申請しない、申請を忘れるということは、診療報酬の施設基準の届出漏れ、届出忘れと同じだと考えている。同じ医療を提供しても、施設基準が適正化されていないと収入を逃していることになる。補助金もまさに同じで、せっかくあるのに手間がかかるといった理由で申請しないのはもったいない。
また、震災や今回のようなコロナ禍といった災害的な状況下では、いろいろな形で補助金が設けられる。こうした危機時は、それでなくても通常以外の業務が増え、事務部門も煩雑化することは間違いない。

しかし、そうした厳しい経営環境下だからこそ、臨時で設けられた補助金であり、それを逃す手はない。筆者の病院で日々補助金や助成金の情報にアンテナを張り、積極的に活用するようにしているのは、こうした理由からである。実際、コロナ禍でも補助金がいくつも設けられたが、片っ端から申請した。オンライン資格取得についても、すでに申請済みである。補助金はたまにやる「特別なこと」ではなくルーチン化された業務にしていったほうがいいだろう。

図出典:厚生労働省保険局作成資料をもとに編集部で作成

デジタル化でどう変わるか 未来をイメージできているか

もう一つ、オンライン資格取得が広がらない理由を挙げると、デジタル化がもたらす恩恵を想像できていない病院の経営幹部が多すぎるのではないだろうか。

政府がデジタル庁の新設を掲げ、国全体でデジタル化を推進しようと号令をかけている。諸外国に比べると日本のデジタル化は周回遅れどころか、何十年も遅れをとっていると言われている。
ようやく、民間企業でもDX(デジタルトランスフォーメーション)という概念でデジタル化を急速に進め始め、次いで公的機関がデジタル化を進めつつある。
医療業界でも早速、各種書類の押印が不要といった通知が、各医療機関に届いたのではないだろうか。
オンライン資格証明で当初できることは、保険証の資格確認や限度額認定証の申請にとどまる。それだけでも、レセプトの返戻業務の削減、保険証情報の入力業務の削減など、医事課の業務は大きく効率化されるであろう。

21年10月からは薬剤情報や特定健診のデータが共有され、ポリファーマシーを防止するといった、医療の質にも関係するデータが入手できるようになる。このような当初予定されている変化は些細なことで、デジタル化の魅力としては小さい。しかし、これは変革の一部でしかなく、体制が整えば次々にいろいろなことが促進されると思われる。
患者さんがいつでも診療記録が見られるようになったり、医療機関や介護施設との診療記録が共有といった、何年も前から言われてきたことが、あと5年や10年でできる可能性は十分にある。

すでにそうしたことができている国もあり、技術的には可能となっている。現在、パソコンがない医療機関はないだろうし、電子カルテの導入も、オンラインによるレセプト請求も、今では常識のようになっている。
パソコンなしの医療機関での仕事が考えられないのと同様に、オンラインでつながった各種サービスが使えないところは、さまざまな点で時代に乗り遅れることになるであろう。

最大の問題は、経営幹部をはじめ組織全体で「こうした未来が見えていない」ことであろう。未来が見えていれば、オンライン資格確認といった些細なことくらい前向きに進められるはずだ。
現行の健康保険証を2~3年後に廃止するくらい強制的に制度を変えれば、一気に普及する可能性はある。しかし、おそらく日本でそうしたやり方は受け入れられないだろう。そうなると、また10年や15年かけて徐々にインフラを整えていく可能性が高い。医療業界が、デジタル化が遅れた国で最もデジタル化が遅れた業界にならないようにしたいものだ。(『月刊医療経営士』2021年2月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)