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国は医師数をコントロールしているのは
医師増が医師の競争激化につながるから?

医師増で医師間の競争が激化することよりも、高齢者が遠方の医療機関に通うことがより大きな問題だ

弁護士や会計士は需要増かつ供給増?

法的な問題が発生した時に、弁護士が足りなくて困っているという話を聞いたことがあるだろうか。たとえば、医療訴訟を受けたときに、弁護士が手いっぱいで探すのに苦労した経験のある病院はあるだろうか。おそらく「困ったことはない」というところがほとんどであろう。そうなるのは当然で、日本全体でみると弁護士は不足しているどころか、過剰とまで言われている。2006年に司法試験のあり方を見直し、法科大学院(ロー・スクール)を卒業することが受験の要件となり、当初、法科大学院の定数が急激に増えたことが要因となっている。

00年に比べると2倍以上の弁護士数であり、年齢別にみても30代・40代の男女が最も多く、医師不足にあえいで70代以降の医師でも採用したい病院からしたら夢のような話であろう。

もう一つの事例に、公認会計士がある。読者の医療機関のなかにも、社会福祉法人をもっているところもあるだろう。16年の法改正により、収益規模の大きい社福は上場企業のように会計監査法人による監査が必須となった。対象となるのは全体の1.6%程度の326法人にとどまるが、新興企業の上場先である東証マザーズの上場企業数(333社)に匹敵するような数である。法改正により突如、会計士のお世話になる必要が生じたわけだが、対応してくれる会計士がいなくて困っている、という話は聞かない。弁護士同様、会計士も06年に法改正が行われ、合格者数が大幅に増えた。その結果、00年に比べると2倍以上の会計数となっている。需要が増えても、会計士不足が社会問題化しないわけである。

労働市場は本来需給により形成される

さて、一部を除けば医師の採用については多くの医療機関で悩みの種ではないだろうか。医学部の定数増などで医師数は着実に増えており、00年に比べると1.27倍にはなっているが、高齢者増などによる需要も増えており、医師不足が解消した状況ではない。
医師不足が深刻化したことから06年の「新医師確保総合対策」を皮切りに、医学部の定数を増やし、少しずつ増えている。現在、厚生労働省の「医師需給分科会」でこの医師数をどのようにコントロールしていくかを検討している。足元では高齢者が増えているが、永遠に増えるわけではなく、日本全体では30年前後に需給が均衡すると推計されている。そのため、一時的に増やした医学部定数枠を徐々に減らしていく方向で検討が進められている。23年度から順次定数を減らしていき、いずれは増員する前の06年の水準に戻すという(図表参照)。

本来、労働市場は消費財と同じように、市場の需要と供給により、形成されていくものである。求められる職業には人が集まり、十分に人手が集まると給与が頭打ちになり、流入が止まる。産業構造の変化などで、人手の必要性が低下すると、別の職業に転換する人が生じて、その分野での働き手が少なくなっていく。商店街の鮮魚店や精肉店が食生活を支えていた時代から、スーパーに変わり、コンビニエンスストアやインターネット通販に需要が変化してきた。それに応じて、鮮魚店の店主の数は減り、スーパーの店員になり、今ではネット通販のサイト運営者やシステムエンジニア(SE)などが求められている。これらは市場二ーズにより変化するものであり、国が鮮魚店の数やSEの数をコントロールしているわけではない。

医師数コントロール 所得減が関心事

一方、医師をはじめ、弁護士や会計士は養成校や国家資格者数という形で、国がなり手の数をコントロールしている。弁護士や会計士は不足という社会問題はないが、逆に過剰であると、せっかく取得した資格が活かせないだとか、競争により収入が下がるといった問題が指摘されている。実際に、医師需給分科会の報告書でも「国家資格を伴う職種(弁護士、公認会計士、歯科医師、薬剤師等)の過剰と不足問題の歴史、およびこれらにかかわった人々の人生に与えた影響を考察し、医師数の制御には賢明で周到な政策介入が必要」と書かれている。

医師が過剰となった場合の問題点として、①臨床経験数が少なくなり、医師の質が低下するのではないか、②医師が増えることで需要が誘発され、医療費が増加するのではないか、③若者が医師に偏り他業界のマンパワー不足をもたらすのではないかという点が挙げられている。

さて、この理由を見て読者の皆さんはどう感じるだろうか。①については医師間の競争が起こり、接遇面のサービスも含め高まる可能性もある。②については医療の価格は現在でも診療報酬でコントロールしているので、むやみに増えるのを抑える方法はある。③については、それこそ労働市場の変化に応じて、ニーズがなければ別の職種にシフトするだろう。

分科会資料にこっそりと書かれている、「医師が増えるのに医療費が増えないと、医師の所得の低下が生じる」というのが、最大の関心事なのだろう。実際に、弁護士も会計士も平均給与で言うと、人数が増える前に比べると低下している。結局のところ、現在の既得権益を担保したく、高収入で過度な競争が起こらない環境を維持したい、としか思えない。その犠牲が、医師不足により医療提供の制限や、競争がないために起こる質が高くない医師でも食べていける(医療機関としては渋々採用している)現状ではないだろうか。

現在の法律事務所が競い合って顧客獲得に勤しむように、医師が増えて医師間の競争が激化することよりも、体力が衰えている老人が、治療のために遠方に通う現状の方がより大きな問題だと思うのは筆者だけだろうか。(『月刊医療経営士』2021年1月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)