MMS Woman Lab
Vol.78
リモートワークで生じる意識の差
多様なケースを想定した運用基準を

<今月のお悩み> 病院の経理課で管理者を務めています。当院では人事、総務、経理の職員は週2回交代で在宅ワークをしているのですが、今日、ある職員から1週間連続で在宅ワークをしたいと相談がありました。彼女は夫が臨床検査技師で保育園に通う子どもがいるのですが、子どもが法定伝染病にかかり、保育園を1週間休むことになったそうです。「子どもを家でみる必要があるので、1週間在宅ワークをさせてほしい」とのことですが、許可して良いのか悩んでいます。

コロナ禍で進んだリモートワーク生活様式が大きく変わっている

新しい生活様式のなかで推奨されている「リモートワーク」、いわゆるオフィスワーカーでは在宅ワークやリゾート地でのワーケーションなど、働く場所にとらわれない生活が始まりつつあります。人と接する業務が中心の医療業界ではそこまでのリモートワークはなかなかできませんが、会議や研修など職員が集まる必要がある場合に、場所を分散させるリモートワークを取り入れている病院はあるようです。なかには総務や財務経理などの事務職員を在宅勤務にして病院への出勤者を少なくするような対策を取っている病院もあります。患者さんに接する部門の職員はそうはいきませんが、物理的な環境が整えば病院職員でもリモートワークは可能になります。

ご相談の病院でも事務部門の一部職員に在宅ワークを導入しているとのことですから、かなり先進的な取り組みをされていますね。コロナ禍で進んだリモートワークの影響を評価するために2020年5月に内閣府が行ったアンケート調査「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、子育て世代の家族と過ごす時間についての質問では、70.3%が「家族との時間が増加した」と回答しています。ワークライフバランスの実現、男性の育児参加など1億総活躍社会に向けて課題となっていた生活様式に改善の期待が見えてくる結果と言えます。

とはいえ、すぐに社会全体の考え方が変わるわけでもありませんから、「仕事をすること=会社に来ること」という考え方の人もまだまだ多いのが現実のようです。
さて、ご相談の事例ですが、すでに交代で週2回の在宅ワークを行っている職場で、1週間連続で在宅ワークをさせてほしいという申し出が職員からあったということですね。

管理者として許可して良いかどうか悩んでいるということですが、病院として「在宅ワーク」を許可してはいるものの、どのようなケースが「在宅ワーク」と認められるのか、その運用基準は定められていますか。「在宅ワークは週に何日以内」などの具体的な基準は定めているでしょうか。

在宅ワークに限らず、職場で新たな仕組みを取り入れる際には、運用基準をきちんと定めておくことをおすすめします。判断に困った時の拠り所となるからです。

雇用側と労働者側が共通認識を持つことが必要

今回のケースでは、在宅ワークの対象になっていない部署の職員が同じような状況になったら、どうしていたでしょうか。おそらく、有給休暇を取って対応していたのではないでしょうか。在宅ワークが許可されている部門ということで、勤務環境の柔軟性を拡大解釈しているのかもしれません。

もちろん、そのように柔軟な働き方を可能にするのが本来のリモートワークのあり方なので「間違っている」とは言えませんが、病院としてそこまでの自由度を認めていたかどうかが判断基準になると思います。トライアル的に部職員を対象に始めた在宅ワークであれば、そこまで細かな運用基準はまだできていないかもしれませんし、双方の意識の違いもあるかもしれません。できたばかりの仕組みなのでさまざまなケースを想定して、運用基準をつくっていく必要があります。

また働く側も、在宅ワークとはいえ、仕事とプライベートの時間をどのようにメリハリをつけるが、勤務時の過ごし方をしっかりと考えておく必要があると思います。「家事や育児をしながら仕事をする」という働き方になるのか、自室を職場の環境と同じと考えて家族のために使った時間を勤務時間から除くのかなど、雇用側と労働者側の双方が共通認識を持つ必要がありますね。

実際にはお子さんのことで困っていて早急な対応が必要ですから、自宅で過ごすようになることと思いますが、その間の扱いは有給休暇や時短勤務で対応するのが今の段階では良いのではないかと思います。最終的には病院の労務管理としての判断になるので、就業規則などに照らし合わせて考えてくださいね。

〈石井先生の回答〉

柔軟な働き方を可能にするのが本来のリモートワークなので、「間違っている」とは言えませんが、病院としてそこまでの自由度を認めていたかで判断する必要があります。さまざまなケースを想定して運用基準をつくっていきましょう。また、雇用と労働者の認識を合わせることも重要です。(『月刊医療経営士』2021年1月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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