臨床講座(2) 部門マネジメント 薬剤部門
第2回
後発医薬品、バイオ後続品への対応
病院には、さまざまな専門職が在籍しています。各部門がどのような課題を抱え、どんなマネジメントを行っているか、皆さんは知っているでしょうか。医療経営士が病院全体を巻き込みながら病院改革を進めるには、各部門の状況を理解することが不可欠。各部門で実践されているマネジメントを知ることで見えてくるものがあります。
この数年、抗菌薬を中心とした後発医薬品(ジェネリック医薬品)の不安定な供給体制が後発品に対する医師や薬剤師の不信感を増幅させている。当院においても、感染制御担当薬剤師が抗菌薬の在庫管理・代替薬の提案などに日々奔走し、一部は先発医薬品に戻さざるを得ない事例もあった。
対して業界団体や各後発品メーカーは、厚生労働省の施策の下「安定供給マニュアル」などを作成して対応しているが、市場の状況を見る限り決して十分とは言えない。
しかしこのような現状下においても、医療機関の薬剤部門長や購買部門においては、材料費としての医薬品費率を下げるため、後発品のマネジメントは継続して取り組むべき重点項目である。日本における医療費削減において、後発品使用数量シェアを80%以上で持続することは枢要であり、2020年度診療報酬改定においても「効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上」として周知されている。
本稿では一般後発医薬品、バイオ後続品(バイオシミラー)の適切なマネジメントについて、筆者の経験も踏まえて考える機会としたい。
使用促進のために実践すべきマネジメント
日本ジェネリック製薬協会によると、19年10~12月の後発品数量シェア分析結果(速報値)は77・1%であり、17年6月9日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2017」における、20年9月までに80%という目標にもあと一歩という状況である。
また、中央社会保険医療協議会が19年11月に発出した「後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告(案)」によると、19年6月の医療機関における後発医薬品の使用割合(平均値)は、17年6月と比して外来で68・0%から74・2%に6・2ポイント増加、入院で78・6%から82・7%に4・1ポイント増加している。
すなわち、医師や患者が抱く後発品に対する効果や副作用への不安は依然として課題ではあるものの、日本の後発品使用促進策は確かな効果を得られている。
このような実態を踏まえて今回の改定では、後発品のさらなる推進を図るべく評価がさらに見直されている(表)。後発医薬品使用体制加算では後発医薬品使用体制加算4が削除され、70%以下は加算がなくなり、それ以外の1、2、3は2点ずつのアップとなっている。
今後は、調剤薬局における「後発医薬品調剤体制加算」と同様に減算も検討され、より厳しい見直しは不可避となる。
とは言っても、医療現場においては安定供給こそすべてである。自院の採用後発品のみならず、日々医薬品の流通状況を注視し、代替先発品の確保すらできないという最悪の状況は避けるべく注力したい。
そのためには、受注・生産・供給におけるリードタイム(所要時間)の現状を把握したうえで適正な在庫管理が不可欠となってくる。特に、大規模災害や感染症のパンデミック時においては、地域の医療機関や医薬品卸と連携した対応が重要である。
また今回の改定では、バイオ後続品の使用促進として「在宅自己注射指導管理料」のなかにバイオ後続品に係る説明を患者に行い、処方した場合に「バイオ後続品導入初期加算」が新設されている。
これは、一般的な後発品が頭打ちに近づいたことを踏まえてのさらなる医療費削減への施策であり、各医療機関においてもバイオ後続品使用促進は医薬品購入費抑制の視点においては、一般的な後発品と比較しその効果は大きい。
一方、前述した「後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告(案)」の患者に対する「バイオ後続品」または「バイオシミラー」の認知度調査によると、「知らない」が86・6%で、圧倒的に認知度が低いことがわかる。この認知度の低さの改善を目指していることが、今回の加算要件からも十分読み取れる。本加算の要件にある「バイオ後続品に係る説明を患者に行う」を適切に行い、理解してもらうことが本加算の最重要課題と言えるだろう。
この点において、インスリンなど比較的安価なバイオ後続品で外来での切り替えによって患者負担が軽減される製品は、患者の理解も得やすく実際の使用割合も高い。しかし、高額なバイオ医薬品が使用されるリウマチやがんなどの難病は、難病医療費補助制度や高額療養費制度の対象となり、バイオ後続品に切り替えた際の患者側のメリットがないことが使用促進を妨げる一因と考えられる。
こういった医療制度問題において、事務系医療経営士による積極的介入は不可欠となる。近年における高額療養費制度の変更内容、外来患者の所得区分などを分析し、バイオ後続品への変更によって負担が軽減する患者の抽出などを行ってみてはどうだろうか。
また、公開講座などを通して、一般市民の認知度を向上することでバイオ後続品が促進されれば、健康保険組合、市町村などの医療保険者の負担軽減といった好循環が生まれることも期待される。さらに、公開講座などを地域の医療機関や福祉施設などと連携して行うことは、地域包括システム促進に有効と考えられる。
フォーミュラリー導入などさらなる先を見据えて
読者の皆さんは、「フォーミュラリー」についてはご存じだろうか。
フォーミュラリーとは「医療機関等において医学的妥当性や経済性等を踏まえて作成された医薬品の使用方針」として定義される。費用対効果の観点から欧米諸国で導入が進んでおり、医療費削減効果が立証されている。医学的妥当性をエビデンスなどに基づき評価するため、医療機関と調剤薬局の薬剤師が協働し、先行事例を参考に早めの検討が必要と考える。
本稿で述べたものは後続品、そしてフォーミュラリーとどれも薬剤部門だけで完結できない。事務系医療経営士、経営幹部が共通認識のもとに協働することによって推進するチーム医療と捉えたい。
【参考文献・資料】
・厚生労働省、後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告書(案) ※リンクあり
(参照:2020-04-19)
・日本ジェネリック製薬協会、当協会の安定供給への取り組みについて ※リンクあり
(参照:2020-04-19)
・黒川達夫ほか「第5回バイオシミラーフォーラム」新薬と臨床 vol.68 No.11 2019
欄
きたばた・ともひで●1997年、星薬科大学卒業。99年、同大学大学院卒業後、社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会栗橋病院に入職。現在、薬剤科副科長と務める。作業環境測定士、NST専門療法士、糖尿病療養指導士、医療経営士2級