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高騰する人件費と業務管理費
この2つを解決しない限り利益確保は難しい

利益率が低いのは事実だが評論から解決策は生まれない
地域・社会・患者を分析し「稼ぐ」方法を見い出せ

価格決定のメカニズム

経済学では需要と供給でモノの価格が決まるとされている。わかりやすい事例として株式市場がある。Aという会社の株式を1株1000円で売りたいという人がいても(供給側)、その金額で買いたいという人(需要側)がいないと売買は成立しない。その場合、価格を下げていき、たとえば950円で買いたい人がいれば価格が決まり、取引が成立する。逆に、買いたい人がたくさんいる場合は、オークションのように価格が上がっていく。株式市場や、石油市場のように日々価格が公開で変化するものばかりではないが、資本主義社会では基本的にこのような需要と供給の関係でモノの価格が決まっていく。

個別の企業における価格決定でいうと、モノつくるのにかかるコストを積み上げ、そこに利益を乗せて価格を決めることが一般的である(コスト・プラス法)。利益が出ない価格で販売し続けることは難しく、基本的には利益が上乗せされている。100円ショップのように、売価が定められているものもあるが、この場合は逆算してコストをいくらまでに抑えることで利益を確保している。

ボールペンという同じ商品でも、100円ショップでも、コンビニでも、Webでも販売している。価格帯もバラバラであるが、消費者はその状況に応じて購入先を選ぶことができる。深夜にどうしてもボールペンが必要になった時には、100円ショップの開店を待つことはできず、価格が高くてもコンビニに行く。定期購入している場合は、わざわざお店に買いに行かなくてもWebで購入すれば安くて手間もかからない。このように、一つのものでもいろいろな価格帯があり、売り方があるのが一般消費財である。

収支率が悪化した介護事業

医療や介護の世界ではどうなのかというと、ご存じのとおり診療報酬や介護報酬制度に基づき国か価格を決めている。一般的に、同じ薬であれば日本中どこでも同じ金額(薬価)で販売されている。実際には小児や時間外で加算がついたり、包括化されたりするため、個々の医療機関で価格は変わってくるが、そうした加算等についても、国が価格を決めている。

2021年度介護報酬改定に向けて、介護事業所の利益率が調査された。前回18年度の介護報酬改定は改定率がプラス0.54%であったにもかかわらず、19年度決算における全サービスの平均収支率は2.4%と0.7ポイント悪化している(図表参照)。要因としては、人件費や業務委託費の高騰が挙げられている。国全体としては最低賃金の引き上げを進めているし、少子化により働き手が減少しているため賃金は上がりやすくなっている。

一般消費財の場合、コストが上がれば売価を上げることによって調整することができる。人件費高騰によってサービス価格を上げた事例としては、運送業が挙げられる。運転手不足により賃金を上げないと人手が確保できず、それに応じてサービス価格を引き上げた。また、最近のGoToトラベルも興味深い事例である。コロナ対策による需要促進策であり、旅行代金の35%が割引かれ、さらに周辺で使える15%のクーポンがついてくる。移動の制限緩和も加わり、コロナ禍で沈んでいた観光業が息を吹き返しつつある。需要が回復してくると、”便乗値上げ”がされるようになり、実質割引かれる前に近い金額になっているところもあるという。このように需要と供給のバランスで価格を調整できるのが一般消費財なのである。

もしくは、価格が上げられないのであれば、人手を削って対応する方法もある。ガソリンスタンドのセルフ化はその事例といえる。今となっては8割がセルフ式となり、そうでないところを探すほうが難しい。介護や医療の場合、そのどちらの対応もできない。費用が増加したことによりサービス価格を引き上げることはできないし、施設基準があるため人員をむやみに減らすこともできない。結果として、事業者の利益を削減するしかない。

ギリギリの収支率で危機を乗り越える

今回のコロナ禍では、医療機関の単月収支が数十%も下がっている。利益率が数%の医療機関にとって、大打撃であることは間違いない。福祉医療機構によるコロナ融資や各種補助金、空床補償の診療報酬等、多方面の対策がとられているため最終的にどうなるかわからないが、経営的に余裕がないなかでのコロナ対応であったことは確かであろう。病床稼働率が9割を超えていないと黒字にならず、その黒字幅もたった数%というのが医療機関の実態である。介護も同様で、稼働が数%落ちただけで赤字転落である。

このように手足が縛られているため厳しいという見方もあるが、医療機関も介護事業者数も減っているわけではないので、まだビジネス的に魅力がある領域でもあるのだろう。収支が苦しすぎてビジネスとして成り立たないとしたら新規参入者がなかったり、撤退が相次ぐであろう。先述のガソリンスタンドにおいては、1994年のピーク時(6万421店)に比べて半減(19年3月3万70店)しているという。今のところ思った以上にコロナで痛手を被った法人の倒産は目立っていない。メリットもデメリットもある制約環境ではあるが、個々の組織を経営的に持続可能なものにしていくことが医療経営士に求められる。(『月刊医療経営士』2020年12月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)