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後発品使用8割を達成
財政改革視点の改革は今後も進む

業界の常識は10年で変わる
医療の質と効率性の向上に今後何が求められるのか常に自問自答を繰り返せ

後発医薬品比率政策目標を達成

皆さんの組織でも数値による目標管理を導入していることでしょう。組織管理に限らず、さまざまな政策にも目標が設定されている。たとえば、日銀が設定しているインフレ率2%。なかなか実現していないが、その達成に向けて金融政策が動いている。少子化対策としては出生率1.8%を掲げているが、直近では3年連続低下しており、こちらも達成が難しそうである。医療政策では、病床数を2015年よりも最大20万床削減するとの目標が掲げられ、達成可能かはともかく、徐々に減少してきている。もう一つ、医療分野では20年9月までに後発医薬品の比率を8割にするとの目標が掲げられている。20年4~6月の後発医薬品の数量シェアは79.3%とほぼ達成できそうだ(日本ジェネリック製薬協会)。目標そのものの賛否はともかく、達成という視点からは上出来といえる。本稿では、この後発医薬品の事例をもとに、どのような政策が打たれて、目標値が達成してきたのかをみていく。

後発医薬品の使用を促進する政策は、先日辞任した安倍前首相の経歴と重なる。小泉政権が終わり、それを引き継ぐ形で第1次安倍内閣が06年9月に発足し、07年に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2007」に後発医薬品の使用促進が盛り込まれた。おおもとが経済財政の基本方針であることからも、医療の質向上が目的ではなく医療費の削減策の一環として後発医薬品の促進が位置づけられていることがわかる。同方針で「12年度までに後発医薬品の数量シェアを30%以上(当時の現状から倍増)にする」ことが定められた。それを受けて、厚生労働省が「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」を策定した。

しかし、実際にはこの間に後発医薬品の利用促進は思うように進まず、12年度時点では目標である30%以上の達成の目途が立っていなかった。当時はDPC制度が一般に広がりだした時期である。DPCでの経営改善手法の一つに後発医薬品への切り替えは必ず挙がるが、当時それを主導した経験がある医療経営士は医師の反発が大きかったことを思い出すだろう。同じ成分でも違う薬だ、得体も知れなくて危ない、使っている病院なんてほとんどない、などといった反論に対峙ながら、導入を進めていったのではないだろうか。

具体的なロードマップを示し数量シェア80%を達成

こうした現状を受けて、再度内閣主導で「社会保障・税一体改革大綱」が12年に発表され、後発医薬品推進のロードマップを作成し、総合的な使用促進を図ることが盛り込まれた。厚生労働省がそれを受けて、18年度末までに数量シェア60%以上を目標に改め、図表1で示す6つの取り組みを行うことを示した。まずは、品質が担保された医薬品を安定供給するための取り組みを行い、それを国民も含めて情報提供していく施策が①~③である。さらに、④では都道府県での医療費適正化計画や保険者からの先発品との差額通知も推進された。⑤が診療報酬によるインセンティブであり、処方箋の様式を見直して後発品への切り替えが不可な場合に記載が必須となり、薬局の調剤基本料に後発医薬品の処方箋割合が30%以上である場合の加算が設けられた。

この頃から成果が出始め、14年ごろにはシェアが50%を超えた(図表2参照)。そのため、15年には目標値を70%以上に上げ、17年にはさらに80%以上へと引き上げた。20年9月末までの目標だったので、ぎりぎりだが、ほぼ誤差の範囲で目標を達成したと言える。さすがに8割も後発医薬品が使われるようになると、医師から切り替えについてとやかく言われることはほとんどなくなった。この10数年間で3割しか使われていない状況から、8割使われている状況へと「常識」が真逆に変わった。諸外国と比べても、米国の9割超、ドイツの8割後半には届かないものの、イギリスの8割弱、フランスの7割弱という数字と比較しても悪くない。今後、9割目標という方針が出るのかどうかわからないが、上昇余地は限られているし、医療現場や国民への一定の浸透は達成できたと言えよう。

財政改革視点からの医療改革は今後も進む

成功要因をみていくと、まず、厚労省発や医療現場や国民発ではなく、財政改革という錦の御旗を掲げた政府による強いトップダウンで進められたことは大きい。筆者はかねてから現在の医療制度改革は財政改革の1つであり、医療の質の向上が目的となっていない、と指摘している。後発医薬品の促進についても、政府主導の財政政策として進められた。次に、質と安全という必須な対策は講じつつも、国民、自治体、保険者、そして医療機関まで巻き込んだことも大きく影響した。反発が大きい専門家(=医師)を外堀から埋める形で、世論を形成していった。ちなみに、健康保険組合別の後発品使用割合をみると、医師国保や製薬会社の健保の割合がいまだに低いようだ。

こうした環境変化から見えてくる教訓が、常識は10年程度で変化するということだ。馬車から自動車に代わるのも、ガラケーからスマホに代わるのも、結婚の仲人がなくなるのも、フランスで胃ろうがなくなるのも、おおよそ10年ちょっとで起こった。10年前の非常識が、10年後の常識に変わってしまうのである。今の医療現場で後発医薬品の切り替えを真っ向から否定する医師がいなくなったように、今では後発医薬品が発売されたら切り替えることが慣例となっている。環境変化に適応できない個人や組織が廃れていくのはもっともかもしれない。大局を俯瞰しつつ、足元の戦術を変化させることが、医療経営士に求められる。(『月刊医療経営士』2020年11月号)

藤井将志 氏
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)