臨床講座(2) 部門マネジメント 薬剤部門
第5回
新生活様式に合わせた 業務構築 〜急速なデジタル化への対応〜

病院には、さまざまな専門職が在籍しています。各部門がどのような課題を抱え、どんなマネジメントを行っているか、皆さんは知っているでしょうか。医療経営士が病院全体を巻き込みながら病院改革を進めるには、各部門の状況を理解することが不可欠。各部門で実践されているマネジメントを知ることで見えてくるものがあります。

今年7月中旬、私たちは豪雨による甚大な災害や新型コロナウイル感染症第2波を経験し、自然界と共存する難しさに直面している。
この渦中における経済的打撃は医療業界においても例外ではなく、医療提供継続の危機感を抱いている医療施設も多いことだろう。さらには、「WITHコロナ」におけるテレワークやソーシャル・ディスタンスといった新しい生活様式への急激な変化に医療提供側も対応を迫られている。

その最たるものが、4月10日に厚生労働省医政局医事課並びに医薬・生活衛生局総務課から発せられた「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」にある。これによって医療者側は、時限的ではあるもののオンライン診療に初診から対応することを求められた。また、2020年度診療報酬改定での医療におけるICTの利活用においても、情報通信機器を用いた診療や服薬指導が評価されており、災害などにかかわらず医療の地域格差は日本における重点課題であることが理解できる。

今回は、新生活様式における薬剤部門の業務変化を振り返り、さらには、今後避けては通れない通信情報機器を用いた業務構築を考えてみたい。

コロナ禍における薬剤部門での業務変化

コロナ禍における医療機関の薬剤業務を全体的にみると、それほど大きな変化は感じなかったというのが正直な感想である。
ただし、感染対策に従事する薬剤師、特に新型コロナウイルスに罹患した患者を受け入れた施設では、休日返上で対応に追われたのではないだろうか。筆者の勤務施設でも、4、5月は感染対策専任薬剤師が夜間・休日もオンコール体制での対応を行った。

一方で、医薬品の流通を担う医薬品卸や製薬会社の医薬品情報担当者(以下、MR)の訪問規制といった外部要因が関連する業務においては一定の変化があった。
まず、医薬品卸の従業員のテレワーク推進や医療機関への配達員の減少によって、至急の配達対応が不可となり、緊急性のある高額薬剤においても一定数在庫を抱えることになった。さらには、中国などから原薬を輸入している医薬品や新型コロナウイルス感染症治療薬候補となった医薬品、その同種同効薬の供給が不安定となり戦々恐々の日々であった。
今回改めて、日本の医薬品供給網の脆弱性を痛感した。直近では、新型コロナウイルスワクチンの開発および輸入による確保が控えているが、原薬などの安定供給スキームをいち早く構築すべきであろう。

次に、MRの訪問規制による薬剤部門の医薬品情報業務の変化について振り返る。筆者の個人的見解では、業務負担は減少しかつ医薬品情報収集においてのデメリットはなかったが、読者の皆さんはどうだろうか? これまでMRへの対応に費やしていた時間や業務内容を分析し、医薬品情報業務全般を見直す機会としたい。少なくとも、MRの販売促進業務に対応する時間は削減すべきであろう。
それと同時に、製薬会社に頼らない業務構築において人材育成は欠かすことはできない。一例として、一般社団法人日本医薬品情報学会が認定する医薬品情報専門薬剤師がある。人材育成は薬剤部門長の重大な責務となる。

通信情報機器を使いこなすために

読者の皆さんは通信情報機器を使いこなしているだろうか。すでに生活の一部になっているスマートフォンやパソコンは不便なく使えている読者がほとんどだと思うが、オンライン会議などはいかがだろうか。コロナ禍でテレワークに慣れた方も多いと思うが、医療従事者はテレワークに限界があるため、環境設備面もこれからという施設がほとんどだろう。

しかし、先述のようにオンライン診療やオンライン服薬指導はすでに始まっており、今後急速に広まる可能性も否定できない。また、医療施設内における新型コロナ感染症などの隔離患者に対してもオンライン服薬指導は有効と考える。
当院では、タブレット端末をコロナ患者1人に1台提供、院内Wi‐Fiを介して施設内オンライン診療やオンライン服薬指導を始めている。電波状況やエリアの影響で通信が途絶えたりするなど課題は多いが、この経験は今後院外患者にオンライン服薬指導を行う際に必ず役立つだろう。

次に、他施設や在宅患者を対象としたオンライン診療、オンライン服薬指導やテレビ会議はさらにハードルが高い。筆者もテレビ会議に数回参加したが、始めは戸惑うばかりだった。通信環境はもちろん、話すタイミングや声の大きさ、顔の表情など自己表現が難しい。特に後期高齢者の患者に対してオンライン服薬指導することを想定すると、通信情報機器の接続や操作方法など機器や通信の知識も少なからず必要となってくる。

また、地域のインターネット回線普及状況の事前把握も不可欠だ。台風や豪雨、地震といった災害時の公衆無線Wi‐Fiなどの利用可否についての事前協議を回線事業者も交えて各自治体を中心に行っておく必要がある。
通信情報機器を使いこなすためには、兎にも角にも経験が重要である。そして、慣れてきたら、失敗を恐れることなく実患者にアプローチしたい。なぜなら、医療従事者の不安より遥かに患者側の不安のほうが大きいからだ。

デジタル教育の推進で安全・質の高い医療を提供

薬剤師においては、調剤などの対物業務は機器の利活用によって安全性と効率化を向上させ、薬剤師自身は対人業務へシフトという時期にある。同時に対人業務はオンラインへとシフトし、テレワークも可能になるだろう。薬剤師のみならず医療従事者はデジタル環境と共存することによって、安全で質の高い医療サービスを継続的かつ網羅的に提供することが可能となる。

事務系医療経営士においては、医療従事者へのデジタル教育においても期待されるところである。既に提供され始めた5G時代の医療経営はデジタルへの適応力がカギになるに違いない。(『月刊医療経営士』9月号)

北畑智英(社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会栗橋病院薬剤科副科長)
きたばた・ともひで●1997年、星薬科大学卒業。99年、同大学大学院卒業後、社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会栗橋病院に入職。現在、薬剤科副科長と務める。作業環境測定士、NST専門療法士、糖尿病療養指導士、医療経営士2級

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