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親族は高齢者のお金を取り放題???
~高齢者の財産虐待被害とその対処について~

介護事業所のリーダーが、今、知っておくべき知識を、業界に精通したC-MASのプロフェッショナルが伝授

財産被害が発生したらどうする?

高齢者が保有する預貯金などを狙う財産被害が頻発しています。電話詐欺などの特殊詐欺に加えて、家族・親族・介護職員が、高齢者の財産を盗むことや預金を勝手に引き出して自分のものにしてしまう事態が起きています。介護事業者は、そのような問題が起きた場合の法律知識を押さえておく必要があります。以下、刑事責任と民事責任に整理のうえでお伝えします。

犯人の刑事責任

①基本

刑法には窃盗罪が規定されています。
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。(刑法第235条(窃盗罪))」
他人の財産を盗めば、刑罰の対象となることが基本です。

②犯人が親族の場合

刑法には【親族相盗例】という親族間の犯罪の特例が定められています。
「1.配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2.前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3.前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。(刑法244条(親族相盗例)」

<法は家庭に入らず>という社会風習や文化が背景にあります。弁護士としては、いくら家族間であっても、盗んだり騙し取ったりする額が数千万円にも及ぶような場合にまで、常にその刑を免除することが妥当なのか疑問をもたないわけではありません。しかしながら、この特例は法的に有効です。この特例により、親族が高齢者の財産を盗んだ場合、刑が免除されてしまいます。被害にあった高齢者が警察に被害申告を行ったとしても、残念ながら、警察は動きません。

③犯人が親族以外の場合

当然に窃盗罪(刑法235条)が適用となります。
犯人が介護職員の場合は、逮捕・実刑・ニュース報道など、大きな問題になってしまうこともあります。

民事上の責任

①基本

高齢者の財産を盗んだり、勝手に預金を引き出せば、当然に返還義務を負います。実行犯人は、民法上の不法行為(民法709条)に基づく損害賠償義務または不当利得(民法703条)に基づく返還義務を負います。これは、犯人が親族でも親族以外の第三者でも変わりません。

1.相続発生前(高齢者健在)の場合
高齢者が自分自身で、犯人に対して返還請求を進める必要があります。高齢者が認知状態の場合は、法定後見人等による返還請求手続きが必要となります。

2.相続発生後(高齢者死亡後)の場合
相続人が返還請求を行うこととなります。相続人が犯人の場合、返還を求める権利と返す義務が一緒になってしまい、一部の返還請求権が消滅することがあります(民法上では「混同」と言います)。

②実務上頻発する事態

盗んだ犯人が「これは高齢者から贈与を受けた」「承諾を得て引き出した」「管理を任されていた」などと反論することがあります。犯人がこのような反論をする場合、時には民事裁判手続きなどで返還を求めていくことになります。

介護事業者の責任と対策

訪問介護事業所などで職員が利用者の財産を盗むなど、利用者へ損害を与えてしまった場合、介護事業者は当然に賠償責任を負います。犯罪行為に手を染めた職員は、盗んだお金を浪費などしてしまい、事業者が支払った賠償金を犯人本人に負担させることは非常に難しいことが多いと言えます。このような事態は事業所運営に深刻な損害を与えます。

そのため、預金や現金管理の業務ルール構築、職員の不正行為の予防教育、不正行為のチェック防止体制の確立、身元保証人の取り付け、従業員による利用者への損害賠償保険の加入などの対策が必要になります。(『地域介護経営 介護ビジョン』2021年7月号)

谷靖介
たに・やすゆき●東京弁護士会所属。石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数
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